閑話その4  幸せのしっぽ3(R15)




(どうしよう。
美咲に豪さんの事、バレてしまった…。)

美咲が帰った後、片付けを済ませ、ゆっくりとお風呂に浸かりながら、夏流は嘆息を漏らした。

(正直、美咲に話すのはまだ早いと思って控えていたのに、でも、解りやすかったのかな?
そんなに私、変わったのかな?)

綺麗になった、としみじみ言われ困惑するしかない夏流に美咲が苦笑を漏らしていた様子を思い出す。

何も変わっていないのに…、と考えながらバスルームにある鏡を見つめた夏流は一気に頬を上気させる。

胸元から脇腹、太ももにと、痕になっている豪との情事の名残に、夏流は耳迄赤く染めあげた。

鏡を見つめながらそっと胸元の痕を辿る。

朝方に迄及ぶ豪との行為…。

土曜日の朝、夏流のマンションに迎えに来た豪と共に門倉の別荘に向い、絹代の手料理をごちそうになった後、
夜にお風呂を終えた夏流は豪の部屋で、豪のピアノの演奏を聴いていた。

ゆったりとソファに座り豪の演奏に聴き入っていると、急に演奏を中断した豪が夏流の側に座った。

「豪さん?」と急に隣に座る豪に、戸惑いの視線を向ける。

夏流の様子に苦笑しながらそっと肩を抱き、身体を屈めながら顔を近づけ夏流の唇に触れる。

「ん…」と啄む様なキスに吐息を漏らす夏流の唇を含む様に奪いながら、豪は夏流を抱き上げ寝室へと向った。

シーツの掠れる音が鼓膜を捕らえる。

ベットに横たえられた私は豪さんに顔中に触れる様なキスを受けながら、部屋着のボタンを外された。

今から、また抱かれる…。

豪さんと愛を交わす様になって、SEXが嫌悪と苦痛を伴う行為とは思わなくなったけど触れられると無意識に体がぴくり、と震える。

腰迄部屋着をずらされ、ブラを取り払われた裸体に視線を注ぐ豪さんの熱っぽい瞳を直に見る事が出来ない。

羞恥と今から始まる行為に一瞬、指先まで震えが走った。

そんな私に豪さんが優しく耳元で囁きながら私を愛し始めた…。

豪さんに愛される様になって、今迄感じていたSEXに関する嫌悪も、身体に触れられる苦痛も消えていった。

正直、一生、誰かに身体を触れされる事は無いと思っていた。

坂下君に強引に奪われた行為に、彼の悲しい過去が彼にああいう手段を取らさせた事は頭では理解出来、別れの際、
整理する事が出来たが身体は違っていた。

卒業し、就職をして、同僚の誘いで何度か合コンに行ったけど、その度、側に男性が座ると体が強張り震えが走った。

何故こうなるのか、隣に座った男性に手を触れられて気付いてしまった。

私は異性に対して拒否反応をしている…。

体があの時の記憶を思い出させる。

怖くなり私は側にいる男性からはなれ化粧室に向い、そこで嘔吐してしまった。

がたがたと震え目に涙が滲む。

怖い怖いと悲鳴を上げる体を強く抱きしめる。

涙を溢れさせながら私はその場を後にした…。

その後,私は心療内科に通い、震えが走る度にそこで処方された薬を服用した。

安定剤を服用している間はどうにか、異性が側にいても自分を保つ事が出来る。

美咲に出会って親身になって私に心を砕く美咲に心を開いた事によって私は薬を服用する回数が減っていった。

豪さんに愛されなかったら、私は過去を克服する事が出来なかった。

「豪さん…」

優しい人。

優しくて穏やかで、何時も強く私を抱きしめ愛してくれる。

「女」である悦びを豪さんによって教えられた。

SEXがただ身体を繋げる事では無く、お互いの愛を確かめる行為だというのも豪さんによって教えられた。

「貴方が好き。
ずっと側にいていいですか…?」

何時もでそうになる言葉を飲み込んでしまう。

何時かは豪さんとは別れる。

それは解っている。

坂下財閥の後継者と一般人で母があんな状態の私との恋が実を結ぶ事はまず、ない…。

だけど、もし叶うならずっと側にいたい。

「豪さんと付き合う様になって私は欲深くなってしまった。
あんなにも人との距離を測っていたのに。
心に深く入り込ます事が無かったのに、私ったら…」
バカよね、と目を閉じ涙を流した。

お風呂から上がりくつろいでいると携帯の音が鳴っている事に気付いた。

出ると豪さんからだった。

「夏流。
今週の金曜日、仕事柄でパーティーがあるが、それが終わったら迎えに行く。
そのまま俺のマンションで過ごして土曜の朝、門倉の別荘に行こう。」

急な豪さんの言葉に一瞬、返事が出来なかった。

「夏流?」

「…ご、ご免なさい。
急な事でちょっとビックリして。
金曜日、何時頃になりますか?」

「そうだな…。
7時に始まるから2時間くらいで終わるだろう。
9時には迎えに行く。」

「…豪さん。」

「どうした、夏流?」

「…貴方が好き」

くすりと笑う声が聞こえる。

「…俺も。
愛しているよ、夏流。」

弾む様に言葉をかける豪に夏流は目に涙を溢れさせていた…。






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