Act.31  再会 その3(R15)




豪さんからプロポーズされた次の日から、私は豪さんのマンションに住む様になった。
最初、豪さんの言葉にかなり抵抗をしたが、彼の熱意に圧倒され何時の間にか私は、こくり、と頷いていた。
その時の豪さんの表情をどういったらいいのだろう…?

あんなに照れた様子で、なのに子供の様に喜びを表す豪さんを私は初めて見た…。

「ご、豪さん…?」

「あ、あははは、嬉し過ぎてどう言ったらいいのだろうか?
有り難う、夏流…!」

思いっきり抱きしめられ唇に優しく触れる。

唇を啄まれながら、私は今迄に知らなかった豪さんの一面を知って、心の中で微笑んだ。

仕事が終わり、母親の病院に行き買い物をして豪さんのマンションに行く。

豪さんのマンションに住む事になった時、今のマンションの解約を…、と言われたけど、それはやんわりと辞退した。

一瞬、困惑した私の表情を見て何かを感じ取ったんだろうか?

訝しげに見つめる豪さんに、職場に住所変更とかの届け出とか、叔母とかにも伝えないと行けないので今はまだ、伏せたいと正直な気持ちを伝えた。

「そうだな…」と微笑む豪さんに、心の中でほっとする。

本当は皆に今の状況を伝えたいのが本心なのだが、でも、まだ私達の事を公には出来ない。

豪さんが婚約を解消するまでは…。

豪さんの婚約者の美樹さんの事を思う…。

豪さんの事を幼い頃から慕い、愛して、そして豪さんの側に生きる事を当たり前と信じていたあの女性がもし、豪さんから婚約を解消されたら
どんな気持ちに陥るのだろうか、と…。

私が美樹さんの立場なら、身を引き裂かれる様な痛みに負われる。

ううん、そんな言葉では表現する事なんて出来ない!

もう、豪さんが側にいない人生なんて考えられないもの…。

許して欲しい、とは言えない。

言える立場ではない。

だけど、私は…。

ふと、私の顔を覗き込む豪さんに私は驚き、そして目を伏せ俯いた。
そんな私を優しく抱きしめ、耳元で囁く。

「夏流が罪悪感を持つ事なんてないんだ…。
全ては俺の責任だから!」

強く抱きしめる豪さんの背中に腕を回して、私は涙を流した…。

(どうか、誰も私達を引き裂く様な事はしないで…!)

身勝手な思いだと解っていても、私は願わずにはいられなかった…。

何時の間にか考えに更けているとエレベーターが最上階に止まった。

降りて豪さんのマンションの前に立ちバッグからカードキーを取り出し、カードを通し扉を開ける。

中に入り広々とした部屋を見回しながら、私は豪さんとの生活の水準の差を改めて感じてしまった。

「本当に広いマンション…。
最上階で多分、豪さんの部屋だけよね、この階にあるのは。

坂下君と豪さんといい、どれだけの財産を持っているのかしら…」

はあ、と深く溜息をしながら、システムキッチンで食事の準備に取りかかる。
食材は全て冷蔵庫に揃われているので、何を買う、と言う訳ではないのだが、今迄の習慣が身に付いている所為だろうか?

(つくづく貧乏性なのね、私って。
でもこの食材の豪華さ…。
このヒレ肉って一体、100g幾らなの?
お野菜だって無農薬だし、まあ、調味料を見ていると、このオリーブオイルって、欲しくても高くって手が出なかった代物…。

わああん、この調味料、凝った料理なんて作れない私にとって、宝の持ち腐れ?って感じだわ。)

とぶつぶつ呟きながら豪さんが好きな料理を作る。

出来上がった料理を見て、思ったより美味しく出来た事に心が浮き立つ。

「我ながら上手く出来たと思うけど、豪さん、喜んでくれるかしら?
あれ?
何時の間にかメールが来ている。
豪さんからだけど、今日も帰宅が遅くなるから、先に食べる事を言っている…。
う〜ん、いいのかしら?
お風呂も先に入って寝ていても良いって書いてるけど、帰宅、そんなに遅いのかしら?」

心配しつつ、私は豪さんの言葉通りに食事を済ませ、お風呂に入る。

広々としたお風呂に浸かり身体を解しながら、昨日お風呂場にても豪さんに求められた事を思い出し、顔を赤くする。

「も、もう私ったら、何を思い出しているのよ!」

かぶりを振りながらも、情熱的に愛された痕が残っている場所を見つけ指でそっと触れる。

甘い疼きが一気に身体を沸き上がる。

真っ赤になって慌てふためきながら私は、身体を洗いお風呂を後にした…。

「遅いな…」

髪を乾かし、リビングに行きテレビのスイッチを入れソファに腰掛けた私は、10時になっても帰宅しない豪さんを心配した。

「何時になるのかしら…?」と昨日の豪さんとの行為で睡眠を余り取れなかった私は、お風呂に入った事で身体の緊張が解け、瞼が重くなっていた。

うとうとしながら私は、何時の間にか思考が途切れ、ソファで深い眠りに落ちていた…。

唇に暖かい感触を感じる…。

ふと目を覚ますと私はベットで眠っていた。

「あれ、豪さん、何時帰宅されたのですか?」

寝ぼけた声で言う私に苦笑を漏らす。

「準備してくれた食事、とても美味しかった…」

そう言って微笑む豪さんに、笑みが零れる。

「今、何時ですか?」と問う私の唇を豪さんが塞ぐ。

キスの合間に「昨日も沢山愛されたから、今日は駄目…」と囁く私の言葉を豪さんが奪う様にキスを深め、片手で器用に部屋着のボタンを外し胸に直に触れる。

触れている手を遮ろうとする私に気付いた豪さんが、胸の先端を指先で弾く。

その行為に、一瞬、甘いしびれが体中に駆け巡り、頬が一気に上気する。

唇が離れ私を見つめる瞳が既に欲情で濡れている事を知り、私は視線を逸らした。

「夏流が側にいる幸せを常に感じたんだ…」と甘い吐息で囁かれ、豪さんは胸を愛撫し始めた…。



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