Act.29  再会 その1




「急に連絡を入れて済まない…」

駅前に向うと既に透流が待っていた。








忍を見てにっこりと微笑む。

相変わらず時間に正確だな…、と忍は変に感心する。

「いや、いいんだ。
「お前が俺に連絡を入れるのは余程の事があっての事だって、解っているから。」

「…透流」

「で、何があったんだ?」

「ああ、まあ、ここでは難しい話だな…。」

「そっか。
じゃあ、何処かでゆっくり聞こうか?」

「有り難う」

礼を述べる忍に透流がにや、っと笑う。

「上手い店に行けると踏んでるから、な俺は…。」

「ああ、透流の期待に添えると思うよ。」

「しかし、相変わらず女達の視線が痛いな。
お前にアプローチしようと躍起になっているな、あちらの美人は。
お、こっちに向っている女性もいるぞ?
忍、どうする?」

苦笑いを零しながら周りをちらちら見つめる。

その言葉に忍はしっれとこう言った。

「勿論、無視だろう」

「…モテる男の特権だな。
この男の敵」

小突く透流に忍に笑みが零れる。

そして思う。

こいつのこういう自然体な気遣いに何度、俺は助けられただろう、かと。

透流の端正な顔を見つめながら、忍は過去を振り返っていた…。

3年前、夏流と別れて直ぐさま透流に所に向い、夏流を見守って欲しいと言う、自分勝手な無理難題な用件を言いつけ
その場で取っ組み合いの喧嘩になり、そして今に至る。

最初は透流も顔を引き攣りながら俺の相手をしていたが、だんだんと自然な表情を俺に見せる様になった。
そして俺もいつの間にか夏流の事で透流に会うのではなく、透流自身の事が知りたくて会う様になった。

こいつと友達になりたい…。

こいつに友だと思われたい…。

付き合いの中で自然と浮かんだ言葉だった。

「どうかしたのか?」

急にだんまりになり考え込む忍を案じる透流の声で我に返った忍が、微苦笑する。

「あ、別に何でもないよ」

「…そっか」

「ああ」

何時もの様に微笑む忍に透流は会った時からずっと違和感を感じた。

(昨日、携帯に急遽かかった時の忍とは思えないな。
いや、逆に敢えて冷静に勤めようとしているのかもな。
一体何があたんだ…?)

昨日の忍の取り乱した声が脳裏に過る。

「俺は一体、どうしたらいいんだ?
透流。
俺に教えてくれ!
俺を…、助けてくないか、透流…!」

悲痛な忍の声が透流の心に深く響いた。

初めて聞く、忍の声…。

透流が思案していると忍が急に透流の肩に触れ、歩き始める。

「お、おい、忍?」

「いくぞ、透流」

すたすたと歩き出す忍につられて早歩きをしながら透流は後を追った。

20分程、歩いて着いた場所に透流は一瞬、言葉を失った。

(ま、まさか、「ホテルタカツキ」の最上階のレストランに案内されるとは思わなかった。)

「ここなら、ゆっくり話せる。」

目を細め微笑む忍に、透流の表情がもっと硬くなる。

(た、確かにゆっくり話せるよ。
ああ、特別に儲けた場所だよな、これ。
夜景が四方から見え隔離されてる場所だもんな…)

と心の中で嘆息を漏らす。

「忍…。
俺、金を余り持っていないぞ。」

「何、気にしている。
透流に出させる気持ちなんてこれっぽっちも無いよ。」

「…」

そういう意味ではないんだけど…、と透流はがっくりと肩を落とす。

「今日、呼び出して本当に済まなかった。」

神妙に語りかける忍に、透流は表情を正して忍に言葉に耳を傾ける。

「なあ、透流。
最近、夏流と会ったか?」

運ばれる料理に嘆息を漏らしながら、急に振られる言葉に、透流はああ、そうかと変に納得した。

(こいつが俺を呼び出す事は夏流の事しか無いよな。)

「成人式の時以来かな?」

「…そっか。
じゃあ、5ヶ月、会っていないんだな…」

「ああ、おれも就職とか引っ越しとかで色々忙しかったから。
今、夏流の母親も体調が安定しているし、成人式の時の夏流も変わった様子が無かったからな。
どうかしたのか?」

「…夏流に男が出来た」

忍の言葉に、口に含んでいた食前酒を吹きそうになった。

「え、お、お前、今なんて…。
な、夏流に男が出来たって嘘だろう?
それは絶対にあり得ない!」

「どうしてそう、言い切れるんだ?」

「そ、それは…」

(言える訳無いじゃないか!
お前との過去の出来事が、夏流の身体にトラウマを残したって…
その夏流に好きな男が出来た。
それは夏流がトラウマを克服出来たって事だよな、きっと。
そしてそれ程、夏流は相手の男に心を許している…。
そんな残酷な言葉、俺には言えない。)

急に言葉を濁す透流の表情が強張っている事に、忍が訝しげに見つめる。

「…お前の事が深く心に刻まれているのに、他の男に目が映る訳無いだろう。」

何とか無難な言葉を忍にかける。

「…」

「何処からその情報が流れた。」

「それは言えない。
だけど、もし、そうだとしたらあり得る相手だと俺は思った。」

「夏流の相手はお前の知っている男なのか?」

「…」

「忍?」

「…なあ、透流。
俺は本当は夏流の事を諦めないといけないんだよな…」

「…」

「夏流の幸せを考えると、今の夏流の恋を祝福しないといけない。
それが本当に愛する人に対する想いだと思う。
だけど、俺はそんな事を考える事が…、出来ない。
今も夏流にその男が触れていると思うと、居ても経ってもいられない!
俺は、夏流を奪った男の存在が憎らしい。
夏流のあの笑顔を、優しい微笑みを、一身に受ける兄貴が…!」

衝撃的な忍の言葉に透流の目が見開く。

「忍…」

「どうして兄貴なんだ…?
どうして夏流を愛した!
俺の想いを知りながら兄貴は夏流を奪ったんだ…。
秋には結婚を控えている兄貴が、何故、夏流に…」

嗚咽を零しながら途切れ途切れに語る忍に、かける言葉が思いつかない。

涙を流しながら告白する忍の言葉を透流は悲痛な趣で見つめていた…。



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