Act.27  波紋 その7(R18)





子供の頃から、求めていたものがある。

ずっと誰かにこんな風に抱きしめて欲しかった。

母が事故にあって、多恵ちゃんとの2人だけの生活が始まり、高校の時には一人になって。
多恵ちゃんが佑司さんと結婚して北海道に行ってしまって、ひとりぼっちになった時、私は言い様も無い哀しみに心を抉られた。

(これからずっと、私は一人なんだ…。
何かあっても、そう簡単に多恵ちゃんには相談出来ない。
やっと幸せになる多恵ちゃんにこれ以上、迷惑なんてかけれない。
佑司さんが北海道に転勤になる時、私の為に結婚を諦めようとした。
そんな多恵ちゃんに、もうこれ以上…。

でも私は…!)

寂しい、と何度、心の中に哀しみが溢れていた…。

誰かに縋りたい、この気持ちを解って欲しい。

ずっと望んでいた事。

私は愛されたかった。

そう…、愛が欲しかった…。

ふと、目を覚ますと、豪さんがじっと見つめていた。
頬に優しく触れる指先が少し濡れている。
泣いていたんだ…、と解った私の頬にキスが落とされた。

「悲しい夢でも見ていたのか?」

「…夢?」

「泣いていた」

「…」

そういった豪さんに私は強く抱きしめられた。

耳元で彼が優しく囁く。

「もう一人ではない。
俺が夏流の側にいる。
だから、悲しむのはやめてくれ。」

ずっと欲しかった言葉を告げられて私は、涙を溢れさせていた。

応える様に強く抱きしめ返す。

「豪さん…」と嗚咽を零す私に顔を覗き込み、優しい視線で私を見つめる。

唇にキスが落とされ、割り込んだ舌が激しく絡まる。

彼の激情を受け止める事が出来ない私の唇から溢れる雫を辿りながら、頬に、首筋に唇が触れる。
彼の髪に指を絡ませ、もっと強請る様に彼の頭を抱きしめる。

自然と呟く言葉に、私はまた涙を流した。

「もっと、私を愛して…。
一人はイヤ…!」

胸を愛撫していた豪さんが顔を上げ、私の唇を強引に奪った。

繰り返されるキスの中で、囁かれる熱い言葉が更に私に涙を流がさす。

「愛している!
夏流、愛している…。
俺にとって夏流だけだ。
誰にも渡さない…!
忍が夏流を望んでも、俺は決して夏流を離さない!」

深く入り込んだ豪さんが、私の全てを飲み込もうとしている。

与えられる快楽が強い波となり、私の意識を奪おうとする。

「豪さん…。
も、もう…」

自然と零れる言葉に更に彼が激しく私を求め、目の前で一気に光が弾いた…。

彼の胸に身体を預けている私の肩に腕を回し、優しく抱きしめる。
彼の心音を聞きながら私は、快楽の余韻が残っている身体を震えさせた。
自然と頬が赤くなる。

彼と愛を交わした時に発した言葉に、私は今になって狼狽えてしまった。

(わ、私ってもう、何を言ったのよ…。
豪さんを困らす事を言って。
もう、夏流のバカ)

そんな私を察した豪さんが、優しく私の髪を梳いて話しかけた。

「夏流に本心を聞きたい時は、こんな風に求めたらいいのかな?」

その言葉を聞いた途端、先程の痴態を思い出し、私は豪さんの胸に顔を伏せた。

「し、知りません!」

恥ずかしくて顔を上げる事が出来ない。

くすり、と笑いながら、そっと私の髪に触れる。

「顔を上げて、夏流」

「イヤです…」

「夏流の顔を見たい」

「もっと、嫌…!」

身体を震わせて笑う豪さんに私は耳迄赤くしてしまった。

(絶対にからかわれている。
もう、豪さんの意地悪…)

肩に回された腕が離れ、私の身体を離し、ベットに纏付ける。

仰向けになった私の顔を覗き込み、そっと唇に触れる。

目を伏せて彼の甘い視線を遮る私に、豪さんがこう話しかけた。

「美樹に婚約解消を願い出た後に、忍に逢って全てを話す。
そして俺たちの事を坂下家に伝えて、君との結婚を進めるよ。

夏流…。
もし、俺が「坂下豪」でなくなっても、君はついて来てくれるか…?」

豪さんの言葉に私は一瞬、言葉を失った。

(私の所為で、彼が全てを無くす…。
そ、そんな…!)

「ご、豪さん。それは…。
駄目です!
私の為に、「坂下」を捨てるという事ですか…?
後継者の座を降りると言う事なんでしょう?
そんな…!」

狼狽えて泣きそうになる私に、また優しくキスを落とす。

優しい微笑みを浮かべながら、彼は更にこう言葉を続けた…。

「違う。
そうではないんだ、夏流…。

俺は本来の自分に戻り、夏流と一緒に自分が願っていた道を共に歩みたい…。

夏流…。

俺は「坂下豪」では無い…。」

「え?」

「坂下の後継者である「坂下豪」は元々、存在しない…」

「豪さん…?」

「坂下の正式なる後継者は生まれた時、既に息をしていなかった。
死産していたんだ…。
俺は坂下家の血筋を受け継いでいない…。」

「…」

そう語る豪さんの瞳が、今迄に無い程、悲しい光を帯びていた…。

余りにも衝撃的な豪さんの言葉に、私はただただ、彼を見つめる事しか出来なかった。

そしてこの後語られる豪さんの過去に、私は深い哀しみを抱き涙を流した…。


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