Act.18 蜜月 その5(R18) 温かい感触が遠のいていく。 自分を取り巻いていたその熱を逃したくなくて、思わずその熱を追った。 そんな自分に、くすり、と苦笑を漏らす声が聞こえる。 (あれ? 私、今、何処にいるの? いつもの様にマンションのベットで寝ているのでは…?) ぼんやりとした思考が覚醒し、目を見開くとそこには豪さんがいた。 一瞬、自分が置かれている状況が把握出来ない。 「豪さん…?」と呼び、彼を見つめると、目に映るのは彼の肢体であった。 「え…?」 「起きたのか、夏流。」 いつもより少し低音で、甘い響きが私のこめかみに伝わる。 (上半身裸? いや、違う…。 全裸…? え??? えええええ!!!!) 互いの体が何も纏ってないと解った途端、私は自ら密着していた身体を離し、シーツを寄せ、くるりと豪さんに背を向けた。 羞恥で耳迄、真っ赤になっている。 そんな私を身体を震えさせながら豪さんは笑った。 豪さんの笑い声に反応した私は、もっと顔を真っ赤にさせた。 (恥ずかしい! もう、こんな…。 いや、逃げたいこの状況から…。 私、豪さんと…) 昨日、彼に抱かれた事を知った私は、半分、パニック状態に陥っていた。 身体をぶるりと震わせ、シーツを被る様にして顔を隠すと背中に温かい感触が伝わった。 彼が背後から腕を回し、私を抱きしめる。 肩に顔が乗せられ、耳元に彼の唇が寄せられる。 「夏流…」と呼ばれる声に、ぴくりと反応すると彼は甘く囁いた。 「どうして俺から離れる…?」 解っていて意地悪な質問する豪さんに、私は心の中で悪態をついていた。 (この人、私がどんな気持ちか知っていてこんな質問をするなんて…! 信じられない。 絶対に豪さんの方に振り向かないから…!) 豪さんの問いに、あくまでも無言を押し通す私に、背後から苦笑する声が聞こえる。 急に豪さんが私の腰に腕を回し、自分の熱を私に強く訴えてきた。 彼の行為に体が震えるのが解る。 求められている…と感じながらも、まだこの行為に慣れない私に豪さんは、官能を引き出す様に私の身体を触れ始めた。 臀部から伝わる彼の熱に、いたずらに触れる指に、私は吐息がこぼれ、昨日、愛された身体が、また疼きだす。 口を手で塞ぎ、甘い疼きに耐えていると、むき出しの肩に彼の唇が触れる。 ねぶる様に肩から背中にかけて触れられる彼の舌の感触に、胸の感触を楽しむかの様に触れられる指先に、私は強く唇を噛み締めた。 そうしないと、彼から与えられる官能に流されそうになる自分を、抑える事が出来ないから…。 私の意図を知った彼がもっと強く、私の身体に自分の痕を付けて行く。 「あ…」と、思わず出る甘い声に、奥底から疼く感触に、更に羞恥心が強くなる。 恥ずかしさの余り涙を流し始めると、その事に気付いた豪さんが私の頬に手を寄せた。 身体を自分に向けさせ、顔を見つめ、「夏流」と優しく呼び、そして唇を深く合わせる。 舌を絡ませ貪る様にキスをされ、カタチを変える様に強く胸を愛撫する彼の指先に、翻弄されるばかりだ。 キスの合間に出る浅い吐息に、彼がもっと目を濡れさせ私の身体を暴いて行く。 自然と漏れる喘ぎを抑える事が出来ない。 いつの間にか羞恥により流していた涙が、彼の愛撫によってすすり泣く様な喘ぎに変わっていた。 与えられる官能に、どうにかやり過ごそうと、下肢に触れている彼の髪を掴み耐えようとするが、彼にもっと深く愛され、耐える事ができない。 身体に一瞬、痺れが伝わり、目の前が真っ白になる。 昨日…、初めて彼によって女になった私は達する事を知った…。 忙しく息をする私の顔を覗き込み、艶やかな視線を私に注ぎ込む。 「夏流…」と名を呼び、ゆっくりと彼が私の中に入ってきた。 普段の彼からは想像も出来ない程、私は彼に激しく、強く愛される。 彼の劣情に耐えられなくなり思わず彼の肩を寄せ、爪をたてる。 「う…」と少し顔を歪ませ漏れる声がどれだけの色香を醸し出しているか、彼は知っているのだろうか…? 甘く息を吐き、艶やかな瞳で見つめられ、私の疼きがまた強くなっていく。 「豪さん…」と名を呼んだ事が引き金になって、彼の動きが早まる。 一瞬、体の奥が弾いた。 その瞬間、体が緩み、私の中から出た彼が私の唇を激しく貪り、ぎゅっと抱きしめる。 身体全身に伝わる彼の熱に、私は今迄にない幸せを感じていた。 「豪さん…」ともう一度、キスの合間に呼ぶと、彼があの深い目で私を見つめ「愛している…」と囁いた。 その言葉に、私は涙を溢れさせていた…。 彼の腕の中で愛し合った余韻に浸る私の顔を覗き込みながら、彼が優しく髪を梳いていた。 時折、頬に、こめかみに、眼に軽くキスをする。 「無理をさせて済まない…」と言葉を囁く彼に、目を伏せる事しか出来ない。 そんな私にすと、目を細め、唇にキスを落とし言葉を続ける。 「俺を受け入れてくれて有り難う、夏流。 俺は今、とても満ち足りている。 君を愛する事が出来たから。」 そういって彼は唇を深く求めてきた。 囁く言葉が、見つめる顔がどれだけ彼が私を愛しているかを知った…。 穏やかさの中に、激しい熱情を秘めたあの視線が私を射抜く。 その瞳に魅入られて私は、彼に伝えた。 「貴方に愛されてとても幸せです。 豪さん。 私も貴方を愛しています…!」 自然と言葉が出た。 彼は私の言葉に破顔し、私をまた激しく求めた。 至福の時…。 愛し、愛される事を全身に知った私は、今、誰よりも幸せだと感じていた。 彼に愛を囁かれ、抱きしめられながら、私はこの幸せが永遠に続くとずっと信じていた。 彼がずっと側にいて微笑み、私を愛してくれる。 そう、信じていた…。 この時の私は、まだ知らなかった。 互いの立場が、何を物語っているかというのを。 彼が「坂下」の後継者である本当の意味を…。 彼の愛に溺れはじめていた私は、この後、出会う人物によって、心が引き裂かれる様な痛みを抱く事になるのを、今はまだ、知る由もなかった…。 |