Act.17   蜜月 その4(R18)





真っ白いシーツに覆われたベットにそっと下ろされた私を、側に座った豪さんが、ぎゅっと抱きしめる。
耳元で囁く言葉に、私は鼓動が早くなるのを抑える事が出来ない。
彼に伝わるのでは?と思うくらい、ドキドキと音を立てている。

そんな私に、真摯な眼差しを向けて私に話しかける。

「性急だと思っている。
夏流の気持ちに、まだ過去の記憶が深い傷として残っている事も解っている。
だけど、俺は夏流が欲しい。
夏流の身体も、心も全てが俺のモノだと感じたい。
だから…」

夏流を抱くよ、と言う言葉に私は目を閉じ、彼に身体を委ねた…。

ひとつひとつ、部屋着のボタンを外して行く。
片方の腕で背中を抱かれ、もう片方で部屋着を脱がしベットの下に落とす。

下着姿になった私の肩に豪さんの唇が触れる。
時折、ちくり、と痛みを伴う行為に私は顔を歪ます。
私の表情に痛みを感じた事を知った彼が、その部分に舌を這わせる。
ざらりとした感触が、私に羞恥心を起こさせる。
思わず身体をひねり、彼の行為を拒もうとする私の後頭部に手を添え、唇を奪う。

全てを飲む込もうとするキスに私は自分を保つ事が出来ず、彼の部屋着をぎゅっと掴む。

そんな私の身体を、キスを繰り返しながらゆっくりと押し倒し、シーツに纏わせる。

シーツのひんやりとした感触に一瞬、体がぷるり、と震えが走るが、彼の唇が触れる事によって全身に熱がじんわりと灯る。

彼の吐息を、唇の熱さを直に感じる、顔が、身体がどんな風になっているか、恥ずかしくて目を開く事が出来ない。

硬く瞑っていると、ふと、彼の唇を感じた。

「目を開けて」と、いつもよりも低くて艶やかな声で囁かれて、更に羞恥が走り目を開ける事が出来ない。
いやいやと頚を振る私に、彼の苦笑が耳元で聞こえた。

一瞬、彼が私から体が離れる。

ぱさり、と言う衣音が聞こえ、彼が部屋着を脱ぎ捨てた事を知る。
そして、彼の身体が私の身体に密着する。
直に彼の体温を感じて私は、今にも発火しそうなくらい羞恥に頬を染めた。

恥ずかしくて顔を背けると、頬に手を添えられ、じっと見つめられる。

「夏流…」と耳朶を含みながら私を呼ぶ。

「俺を見て…」と項を唇で触れながら私に囁く。

熱い吐息が身体をくすぐり、ぞわりと駆け巡る甘い刺激に、私は耐える様に強くシーツを握る。
くすり、と笑いながら、彼は硬く握るシーツから指を離し、その指に舌を這わせ、甘く噛み、そして唇に含む。
ねっとりとした感触に、身体の奥が疼き始める。

自分の中の「女」を刺激されて、私は怖くなり、思わず否定の言葉を零した。

その言葉が、身体を暴かれた事での言葉ではない事を感じた彼が、もっと私の指を刺激する。

「やめて…」と漏れる言葉を無視して、彼は更に愛撫を深める様に、指から腕にそって唇で辿っていく。

肩から鎖骨、胸の谷間に唇と指で触れていき、そしてブラに手をかけられ、外された。

彼に裸体を見つめられている事に耐えられなくなった私は、胸に手をかけ、彼の視線を遮ろうとしたが、
その手を絡めとられ、シーツに纏わされる。

艶やかな視線を隠す事無く私に注ぎ込む彼が、私にそっと囁く。

綺麗だ…、と。

その言葉に私はうっすらと目を開き、彼を見つめる。

彼を見つめて私は思った。

私は彼の何を知っていたのであろうかと…。

いつも穏やかに、優しい微笑みを絶やさない彼が、今は私に欲情を隠す事無く艶やかな瞳で私を求めている。
ぱさりと無造作に落ちている前髪が、濡れた瞳が、引き締まった上半身が何とも言えない色気が醸し出され、その艶やかさに目を
離す事が出来ない。

「豪さん…」と、うっとりと魅入られ、零れる言葉に、彼はふと微笑んだ。

唇が自然と重なり合う。

キスの合間に、何度も何度も愛を囁かれ、絡み付く指が彼の熱情を私に伝える。

「夏流、夏流…!」と狂った様に名前を呼ばれ、胸を愛撫され、私は彼の熱に耐える様に彼の頭を強く抱きしめる。
触れられる唇が下肢へと降りて行く。

そして下着が下ろさせ、下肢に彼の唇が触れた瞬間、今迄、彼の熱に悶えていた私の身体が、一気に冷える感覚に陥らされた。

目の前に、「あの」光景が一瞬にして広がっていく…。

耳に坂下君の言葉が、何度も木霊する。

体が震えだし、上手く噛み合ない歯ががだがだと音を立てる。

蘇る言葉に、涙が止めど無く流れ出した。

「逃げられると思っている訳?
お前は俺のモノだよ、夏流。
一生、お前は俺から離れる事なんて出来ないんだよ…。
離れようとしたらどうなるか、その身体に叩き込んでやるよ…!」

あの冷ややかな目が、暗い光を帯びた視線が、残酷な言葉が心を抉る。

そして一気に貫いた身体の痛みが蘇り、体が硬直する。

「やめて…!
やめて、坂下君。
いや!
私に触れないで!
怖い!
怖い、誰か助けて…!
いやあああ!」

下肢に触れられた事によって、一気に記憶が蘇り、意識が失われそうになった私を強く抱きしめ、豪さんは耳元で囁く。

「俺は夏流を傷つけない!
夏流…!
今、夏流を抱いているのは俺だ…。
夏流。
俺を見るんだ…!」

上手く呼吸の出来ない私の唇を奪い深く求めながら、私を記憶の混乱から覚醒させようとする。

「愛している…」とキスの合間に囁かれ、強く強く抱きしめられる。

だんだんと彼の呼びかけに、強く抱きしめられる腕の温かさに、朦朧としていた意識が戻り、身体に駆け巡っていた恐怖が静まっていく。

「豪さん…?」と不安げに言葉を零す私に、彼はまた唇を奪った。

深く絡み付く舌の激しさに、「うん…」と息苦しさに声を漏らす私の唇から離れ、瞼に、こめかみに、頬に労る様にキスをする。
そして、もう一度優しく唇に触れて、「夏流」と私を呼ぶ。

彼のその声に、私は涙を流した…。

涙を流す私に微笑み、ぎゅっと、また強く抱きしめられる。

温かい…。

彼の愛が、傷ついた心に、身体にゆっくりと伝わって行く。

「豪さん、豪さん…!」と何度も名前を呼び、縋る様に彼の頚に腕を回す私を、温かい腕が強く抱きしめ返す。

全ての不安を打ち消す様に、彼を求める私の中に、彼が深く繋がっていく。

彼の情熱を全身に受け止めようとする私に、彼は汗を滴らせ、全ての熱を注ぎ込んでいく。

何度も何度も愛され、失われそうになる意識の中で、弾かれる彼の熱を奥底で受け止めた時、私は過去の残像が消え去った事を知った。

自然と私は涙を流していた…。

彼の愛を受け入れて、私は今日、初めて「女」になった…。


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