Act.13 恋(R15)





彼の存在を強く感じる口づけ。
余りの熱の熱さに私は自分を支える事が出来なかった。
彼にしがみつき思わず「苦しい」と訴える私に苦笑し、唇を離し、頬に、目尻に、こめかみに軽くキスをする。
息がなかなか整わない私を思っての行為だと思うと、ますます体中の熱が奪われる。

「坂下さん…」と彼を呼ぶと、すと、唇が塞がれた。

急の彼の行為に目をぱりくりさせると、少し不機嫌な様子を露にした彼がこう、耳元で囁いた。

「俺の名前は豪…だ。」

名前を呼んで欲しい…、と耳朶を含まれながら艶やかに囁く。

何処迄も甘い行為にくらくらする。
目を伏せ、戸惑いながら「豪さん…」と言うと、彼は目を細め、また、私の唇を塞いだ。
身体を椅子に纏われ、おいかぶさる様に彼が私に近づき、キスをする。
何度も角度を変え、唇を奪う彼の瞳は熱に濡れて、欲情を隠す事無く私に向ける。
下唇を甘く噛まれ、その甘さに吐息が零れるのを彼は逃す事無く、舌を割り込ませ私の口内を優しく触れる。

ぴちゃりと脳内に響き渡る彼との行為に、身体の力が抜け全ての感覚が奪われた。

キスの間、ずっと優しく髪を梳いていた彼の指先が離れ、私の身体の線を辿り触れて行く。

首筋に、鎖骨に、そして胸元に。

カタチを確かめる様にニットの上から触れられた瞬間、私は思わず顔を歪ませ、縋る指に力を込めた。
奪われる恐怖が一瞬、身体に蘇った事を察した彼が、すと、唇を離し、耳元で優しく囁いた。

「怖がらないで。
俺は君を傷つける事はしない、夏流。」

だから俺に心を委ねて…、と彼はそう囁いて、また唇を奪った。

熱に思考が浮かされる。

何度も繰り返されるキスに朦朧とする私に微笑み、項にかけて唇が這われる。
熱い吐息が翳める感覚に、触れる指先に身体の奥が疼き始める。
その感覚に意識が戻り、どくり、と心臓の音が鳴った。

(こんな感覚、初めて…。
坂下君に何度も身体を奪われた時には、こんな事は無かった…)

彼に触れられて初めて味わう甘い疼きに、身体を奪われた恐怖と共に、それを上回る未知の感覚に、震えが走り出した。

(こわい、ううん、違う。
何、この感覚…。
私…!)

初めての感覚に戸惑う私に優しく微笑み、そっと目尻に唇を落とす。
涙が微かに滲んでいた事に気付いての行為だと思うと、心が温かくなり目がまたが潤みだした。
見つめる私に「そんな顔で煽らないでくれ」と彼は苦笑し、そしてニットの中に手を入れ、直に背中に触れる。

ブラのフォックを外し、手を動かし胸に触れ始めた。

直に触れられる感覚に今迄の甘い疼きが冷め、一気に意識が戻り、恐怖が全身に駆け巡る。

「怖い…!」と思わず呟く私に彼は反応し、直に触れていた手を離し、私の顔を覗き込んだ。

唇が震えている事を知ると、彼は優しく唇を啄んだ。

「夏流…」

じっと見つめる彼の瞳が何を伝えているか、解る。

彼が私を欲している。

だけど…。

「気持ちが先走ってしまった。
済まない。
夏流の気持ちを大切にしないといけないのに。」

そういい終えると彼は私の衣服を整え、そっと抱きしめた。

抱きしめる腕の優しさに涙が出る。

「豪さん…」

嗚咽を零し彼に縋がる私を強く抱きしめ返した。

「大丈夫だから。
夏流は何も悪く無い…。
だから、もう泣かないで」

何度もそう耳元で言いながら豪さんは髪の毛を優しく梳いてくれた。

彼の優しさにまた、涙が出た。

「…明日、何か予定がある?」

彼の問いにぽつりぽつり午後から何も予定が無い事を伝えると、ふと微笑んだ。

「じゃあ、俺に付き合ってくれないか?」

少し戸惑いながらこくり、と頷くと満面の笑みで私に微笑んだ。

「用事が終わったら携帯に連絡して欲しい」と言われ、彼は帰って行った。

部屋に入り、ベットに突っ伏せた途端、先程の彼との行為に全身を赤く染めた。

何度も触れられた唇を指先で辿る。

「豪さん…」と確かめる様に彼の名を呟く。

思い出す豪の姿にまた、夏流の心が跳ねた。

恋をしている…。

確実に彼に心を奪われている。

あの優しくて、穏やかで、そして激しい情熱を心に秘めた彼に。

もう一度豪の名前を呟きながら夏流は甘い感傷に身を任せ、目を閉じた…。

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