Act.2 余りにも馬鹿げた因果関係


「やっと、ここまで辿り着いたか…」

先程迄濃密な時間を共に過ごし、意識を手放した朱美を腕に抱き寄せながら、輝はふっと、微笑んだ。

(これで朱美は完全に俺のモノだ。
どんなに抵抗しても、絶対に結婚に踏み込んでやる…)

眠る朱美の左手を取り、燦然と輝くダイヤモンドにゆっくりと唇を這わせた…。


昨日、強引に婚約を取りなした坂下朱美は、俺の親友の妹であり、幼なじみであるのだが、かなり複雑(?)な間柄である。

それは俺たちの父親に由来する。

俺の父親である高槻和輝と、豪と朱美の父親である坂下浩貴は子供の頃から、色々な意味でライバルであった。

家柄、学歴、そして、成月涼司さん…。

特に涼司さんの事に関しては、2人とも常軌を逸していた。

いや、2人だけではなく6人か…。

忍君の実父である成月涼司さんは、俺の父親の親友でもあった。
大学時代に俺の父と豪の父親である浩貴さんを含めた6人は、出会ったのだが…
涼司さんの光り輝く美貌、それを上回る人柄と頭脳に、父親は一目で惚れ込んでしまった。

普通、女に使う言葉と思うのだが、多分、この表現が一番正しいであろう…。

異常とも言える父親の涼司さんに対する盲愛ぶりは、家族をいつも震えさせたと言う。

それはそうだろう。

若かりし頃の俺の父親は、豪の父親と同じく傲慢で、冷徹でワガママで自分勝手で、地球は全て自分の為に回っていると信じて疑っていなかったのだから。

今も余り性格は変わらないが、さすがに地球は自分の為に回っているとは言わなくなった…。

だから祖父達は、どうにか涼司さんを叔母と結婚させ、自分たちの元に欲しかったそうな。

まあ、涼司さんの事を気に入っていたのもあったが、あの親父を牽制する事が出来るのは涼司さん以外にいなかったのが一番の理由であろう。

確かに祖父達の考えは正しかった。

涼司さんが俺たちの血縁になっていたら、親父の性格はかなり良い方向に向かっていたと思う。

だが、世の中思い通りにならないのが常と言うもの。

涼司さんは豪の父親の秘書を辞め、故郷に帰り豪の叔母と結婚した。

涼司さんの結婚を知ったときの、親父のあの狂乱ぶりは荒ましかったな。

あれを思いだす度に、父親の尊厳と言うモノを考えさせられた。

あ、そういえば、あの時だけは、流石に父親の行動に部下の前で呻いてしまった。

今から7年前、涼司さんが転落事故で亡くなったと言う知らせが親父の耳に入った時、重要な会議中にも関わらず、父はなりふり構わず病院に即、向った。

そして、涼司さんの遺体を見るなり、その場に座り込み号泣したと言う。

あり得ない現象だ、と父親の様子を部下から報告を受けた母を始め祖父達は、多いに震撼した。

その後、親父の関心は当然、涼司さんの息子である忍君に傾いたのだが…。

初めて忍君を見た時、これまた親父は人目も憚らず感涙したと言う。

忍君は、涼司さんに生き写しと言える程、そっくりであった…。

そして忍君の事で、親父と豪の父親との確執が更に強くなった事は言う迄も無い…。

忍君の義父と言う立場をひけらかし、忍君を独り占めしてると言う豪の父親の態度が、親父を含め、涼司さんを心酔してる方々の頭の血管を、ぶち切っているのだから。

少しでも忍君に近づこうとすると、涼司さんの話題が7年前の事故を思いださすのでやめて欲しいと、浩貴さんは悉く親父達を突っぱねた。

忍君の7年前の様子を知っているだけに、親父達は反論も出来ず、ぐっと堪えている。

あの、我慢と言う言葉が存在しない親父が。

たまに俺の店に食事に来る、忍君の様子をそっとかいま見るのが、親父の今の最大の楽しみだと言えよう。

しかし、本当に馬鹿げている…。

高槻グループの総帥ともあろう者が。

他の方々もそうだ。

だが、この忍君に対する執着が、今回、俺と朱美の婚約に、大いなる付加価値がつくと言うのもお見通しなので、大賛成される事は120%間違いないだろう。

親父は間接的とは言え、忍君の義父と言える立場になるのだから。

婚約した事を伝えるときの親父の喜び様が手にとる様に解る。

ええ、多いに利用させて頂きますよ。

豪の父親が、絶対に俺と朱美の結婚を承諾しない事は、最初から解っていますから。

「しかし、やっと長年の片思いに終止符か。

それも結婚と言うカタチで。

本人は俺にそんな感情は一切持ち合わせていないが、さて、どう惚れさせよう?

このパーフェクト・レディをね。」




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