Act.11 恋の自覚





(全く持って腹が立つ…!

どうしてあんな人がパパの親友なの!

もおおおお!!!)

孝治の不敵な言葉を思いだし、顔を真っ赤にし怒り爆発な春菜の姿を横目で見ながら忍は深く微笑んだ。

そう、まるで楽しむかの様に深く、深く。

忍の含む様に微笑む姿に、今、自分が忍と一緒に下校している事に春菜は気付いた。

そして自分の不機嫌な態度を知られた事に肩を落とす。

(はああ、また一つ坂下君に弱みを握られた…)

心の中で落ち込む事しか出来ない。

それ程春菜は昨日初対面をした孝治の言葉に気持ちを乱されていた…。

(もう、どうして結婚なんなのよ。

絶対にあれは私をからかって楽しんでいる。

いい大人が一目惚れなんてあり得ないわよ!

それにどう見たって、不釣り合いとしか考えられないじゃないの!

悔しいけど…、孝治さんもかなりハンサムだった。

背はパパよりも高くって、精悍で男らしくて、そして自信たっぷりで。

仕事も出来る、とあの様子で伺えたし、それに性格も前向きで明るい。

絶対に女性が途絶えた事なんてないんだ、きっと。

そんな大人の男性が、十人並みで子供な私に一目惚れなんて、絶対に嘘に決まっている!

もおおお、人をバカにしないでよ〜!!!)

余りにも怒りが収まり切らない春菜の瞳に涙がじんわりと滲んだ。

顔を真っ赤にぽろぽろ涙を流す春菜に流石の忍も笑いを収めた。

「どうかしたのか?」

神妙に言葉をかけ様子を見つめる。

忍の気遣う態度に春菜は一気に涙を引っ込めた。

「…別に何も無いわ。

ご免なさい、急に涙を見せて。」

「…そうか。

甘いモノでも食べに行こうか。」

目を細め微笑む忍に春菜は少し顔を赤らめそして、こくり、と頷いた。

忍のさり気ない優しさに心が跳ねる。

忍に心が傾きかけているとは、春菜はまだ気付いていなかった。



「少し書店に立ち寄りたいんだが、いいかな?」

カフェに向う迄、無言が少しの間、2人の中に流れていたのを急に忍が打ち破った。

忍の言葉に「ええ」と返事をし、後に続く。

かなり大きな書店で専門書を取り扱うだけに店舗の広さも半端ではない。

自分が欲しいている書籍の階数を見た忍が春菜に声をかけ、場所を離れた。

「何を探すのかな…?」と忍が欲している書籍に興味を持った春菜は、こっそりと後をつけた。

エスカレーターで上がり、目的の場所に着いた春菜が忍の姿を探していると、あの女性徒の姿を偶然見た。

忍が心惹かれている彼女の姿を微妙な気分で見つめていると彼女が、急に微笑みながら本を手に取った。

探している本が見つかって喜んでいるんだ…、とまじまじに彼女の様子を見つめていると、いつの間にか忍が自分の隣に立っていた。

息を飲む忍に春菜の心にちくりと痛みが走った。

会計を終えこちらに来ようとする彼女に忍は声をかけた。

忍の急な行動に春菜は言葉を失った。

「君もここで本を探していたんだね、藤枝夏流さん。」

(彼女の名前、知っているんだ!)

当たり前か…、と忍が彼女の名前を知っている事にかなり彼女にご執心なんだ、と春菜は気持ちがもっともやもやした。

忍の声かけに顔を引き攣らせ、表情を硬くする。

「…貴方には関係ないでしょう?坂下君」

「へええ、俺の名前、知っていたんだ。」

「有名だから…。

学園内で貴方の事を知らない学生っているのかしら。

でも、貴方が私の事を知っている事も意外だと思うんだけど。

クラスが違うし。」

「君が俺に言った言葉、知ってるよね?

あの言葉を聞いて、君の事を調べたと言ったら、納得する?」

目に悪戯を思い立った様な光を帯びている忍の視線を夏流は逸らした。

顔を顰めている様子に春菜は驚いた。

そんな夏流に忍は、くつくつと笑い出す始末だ。

「君って、本当に俺の事が苦手なんだね、藤枝さん。」

忍の言葉に嫌みを含んだ言葉が返って来る。

「全ての女性が貴方の事を好きになるとは思わないでね、坂下君。

私…、貴方なんて大嫌いだから…!」

夏流の言葉に春菜は目を見開き呆然とした。

忍はと言うと夏流の言葉に更に笑い出す。

とても楽しそうに。

「…俺にそんな言葉を言うのは君が初めてだよ、藤枝さん。」

忍と夏流の会話を恐る恐る見つめる春菜の気持ちはかなり複雑だった。

(坂下君、本当に彼女の事が好きなんだ…!)

改めて忍の気持ちを目の当たりにした春菜はそっと忍の側を離れ、踵を返した。

春菜の行動に気付いた忍は夏流との会話を中断させ、春菜を追った。

忍が春菜の腕を掴む。

振りほどこうとする春菜に瞳にいつの間には涙が溢れていた…。

怪訝な様子で自分を見つめている忍に気付いた春菜は、自分が無意識に涙を流している姿に驚いた。

手で涙を拭う。

涙を流す自分の姿に、春菜は忍に心を奪われている事にやっと気付くのであった…。





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