噂の彼氏 その1



忍と一緒に暮らしだして丁度、一ヶ月が経過した。

毎日、朝5時半に起床。

朝食と2人分のお弁当の準備をしながら、洗濯を回し7時前に忍を起こす。

眠る忍の顔を見ながら、「本当に綺麗な顔よね…」としみじみと思いながら起こしにかかる。

ぼおおと、半分寝ぼけた様子に苦笑する夏流の腕を引き、忍は軽くキスをした。

「お早う」と忍の甘い笑顔に夏流は頬を染め、そして少し拗ねた様子で忍に文句を言う。

「もう、毎朝同じ事をして…。

早く起きて支度をしないと遅れるでしょう?」

夏流の照れを隠す口調に忍は深い笑みを浮かべながら、ゆっくりとベットから起きだす。

シャワーを浴びに浴室に向う忍の姿を見つめながら夏流は、ベットのシーツを取り替え始めた…。

幸せと感じる毎日。

愛する人が側にいて、そしてその人に愛されて。

夏流は忍との生活に今迄に無い幸せを噛み締めていた…。



「ねえ、藤枝さんの彼氏って本当にハンサムね…」

職場の同僚である橘に忍の事を褒められて夏流は、微苦笑を漏らした。

「背も高いし、総合病院の外科医って言うじゃない。

藤枝さんを狙っていた男性陣もこれでやっと落ち着くわね。」

と言葉をかける橘に夏流は意外だと言う眼差しを向けた。

「そんな言葉を頂けるとは思っていませんでした。

私、モテた事はありませんよ」と言葉を紡ぐ夏流に橘は、

「みんな、なかなか告白が出来ないって言っていたわよ。

藤枝さんはちょっと近寄りがたい雰囲気があると言うか…。

美人で何事にも真面目だから、男達が告白に戸惑うのよね。」

橘の自分の評価に夏流は改めて「それは橘さんの勘違いかと思われます…」と言い、会話を終わらせた。



「ねえ、夏流。

あの男とは上手くいってるの?、とは聞くべき事では無いわね、その様子では。」

休日、夏流はお気に入りのカフェにて、久々に美咲との会話に心を弾ませていた。

「もう、美咲ったら…。

忍について本当に辛辣なんだから。」

夏流の言葉に美咲はしかめ面をして話しかける。

「だって、この間、あの男が勤める病院に医療調査で面談に行ったのだけど、
患者さんと職員の評判もかなりいいじゃない。

それぞれの評価が、クールで仕事熱心で、切れ者で、表情を崩さないって言う言葉に、笑いそうになるのをどうにか鎮めるのに
苦労したんだから!

夏流の前で見せてる姿を知ったらと思うと、ね。

しかし、遠目で見たけど目立つよね、あの容姿は…。

夏流の携帯の待ち受けを見た時に、男の癖になんて整った顔をしているんだと思ったけど、あれは犯罪だわ。

群がる女性陣たちの数が半端ではないよ、夏流。」

美咲の言葉に、思わず苦笑を漏らす。

女性云々の言葉を出しても動じない夏流に美咲は、少しからかってやろうと更に言葉を続けた。

「どうも病院に女性職員によるファン倶楽部があるらしいよ。

熱心なファンがいて、夏流の存在を知っても関係無いって豪語しているわよ。

夏流、妬けない?」

美咲の言葉に一瞬、視線が彷徨ったが、ふっと微笑んだ。

「毎回の事だからもう慣れてる。

学生時代からそういうのがあったし、散々な事も言われていたから免疫がついてるわよ。

ただ、何故、忍が私を選んだかは今になっても解らないのが正直な感想。

審美眼を疑うわよね、と思いつつ…。

本当に忍も趣味が悪いわ。」

夏流の言葉に美咲は呆然とした表情で見つめ返した。

「ね、ねえ、夏流。

本当に自分の事、そう思うの?」

美咲の意外な言葉に驚きながらも、すかさず首を縦に振る。

「え〜、だってそうじゃない。」

夏流の言葉に無言を通しながらも心の中で、「本当に自覚がないんだ…」と深いため息を漏らした。

(夏流って、自分がどれだけ美人かというのを全くもって自覚してないんだ。

確かにあれだけ綺麗な男が側にいたら、まあ、疎くなるのも解るけどね。)

テーブルにあった夏流の携帯が震える。

「夏流、携帯が鳴ってるよ。」と言う美咲の言葉に、ふと画面を見ると忍からのメールであった。

メールの内容を見ながら夏流は淡く微笑んだ。

「あ、あの男からのメールだね。」

「うん。

今、仕事が終わったから、駅前で待ち合わせて食事に行こうって。」

「はいはい、では、お開きにしようか。

またメール頂戴ね。」

「美咲、ごめんね。

久しぶりにゆっくり話が出来ると思ったのに、本当にごめん。」

手を合わせ、何度も謝る夏流の姿を美咲は優しい瞳で見つめていた。

今迄色々な事があった親友が、女として幸せな表情を自分に見せている…。

美咲は温かい気持ちで心が一杯になっていた。

「何かあったら何時でも言うのよ。

あの男にはがつんと言ってやるから!」

美咲の言葉に思いっきり破顔する夏流。

「ふふふ、ありがと、美咲。」

「またね、夏流。」

美咲とカフェで別れた夏流は、忍が待つ駅前へと踵を返した。

(食事は何処に行くつもりかしら?

やっぱり「一光」かな?

最近、ご無沙汰だし…。)

「ま、何処でもいいけどね〜」と、笑いながら夏流は、歩調を早め駅前へと向うのであった…。


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つたない作品にいつもお付き合い下さり、有り難うございます。
忍と夏流のお話はまだまだ続きます…(笑)
しかし、皆さんは忍の事をどう思われているのか…。
実は密かに気になっていたりします(苦笑)









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