Act.12  六家の集い その5(R15)


くちゅり、と舌が絡まる音が脳髄に響き渡る。
歯列をなぞり口内を侵す輝の舌の激しさに朱美は自分の身体の奥が疼くのを感じた。

輝からの濃厚なキスを受け止めながら頭の隅で思う。

こいつ、キスが上手い…!

どうにか輝が与える官能に流されまいと逆に輝の首に腕を絡ませ自ら舌を絡める。
朱美の行為に一瞬、目を見開きそして微笑みながら艶やかな光を目に宿す。

長いキスの後、なだれ込む様に2人はベットに倒れ込んだ。

朱美の身体をシーツに纏わせ、輝がまた唇を求める。
深く唇を奪われ、輝の激しい愛撫に朱美はどうにか自分を保たせる為にシーツを強く握るしか出来ない。

(こ、こんなハズじゃなかった…。
だってこんなに翻弄されるなんて…!
キスだけではなくてあっちも上手いなんて詐欺だわ…!

し、しーちゃん、ご免なさい…。

私の読みが浅かった所為でしーちゃんを高槻家に奪われたら…)

ぞっとする考えに捕われた朱美の顔が蒼白なのをどう捕らえたのか、輝がにやりと微笑む。
その後どんな風に自分が輝に愛されたか、朱美は意識が途中で途切れてしまい知る事が出来なかった…。



気がついた時、既に輝はベットにはいなかった。
体中に沸き上がる疲労感。
起き上がって発した声が「腰が痛い…」の一言であった。

(な、何よあの男…!
涼しげな容貌であっちに関しては淡白そうに見えるのに、この半端無い筋肉痛は!
最初、酒に酔っていた所為で解らなかったけど、い、イヤ。
このまま付き合っていたら、真面目に腰を痛める。
病院に受診して問診票に書く事が「あれ」の所為ですってなんて、恥ずかしくて言えない!
か、帰ったら即、鎮痛剤と腰に湿布を…。
ううんそれ以前に、今晩の「六家の集い」に行けるのかしら。
行かなかったら、志穂達にどんな風に言われるか…。

既に輝さんとの婚約が知れ渡っているのに、それは嘘だと弁解出来ないじゃない。
も、もしかしてこれを狙った?あの男。

ど、何処迄も姑息なのよ、高槻輝!
絶対にあんた達にはしーちゃんを渡さないから!)

怒りが爆発し、どうにかこの部屋から出ようとベットから起き上がるが腰に力が入らなくて起き上がる事が出来ない。
目には痛みだけではなく悔しさで涙が滲む。

「い、痛い…」と涙ぐみながら言葉を漏らす朱美の耳にドアが開く音が聞こえた。

シャワーを浴びた輝がバスローブ姿で朱美の側に座り込む。
フレーム無しの眼鏡を取った輝を真面目に見るのは初めてだ…、と妙な気持ちで輝を見つめる。
眼鏡をとっても怜悧な美貌に陰りは無しか、と心の中で軽く舌打ちした。

「お早う、朱美。」

何処迄も清々しい輝の様子に朱美の気持ちはもっとどんよりとなる。
出来れ話したく無い、いや、関わりたく無いと思っていても思う様に腰が動かない。
精一杯怒りを露にした視線を向けるしか出来なかった。

「…よくもこんなになる迄抱いたわね…。
どうしてくれるのよ!
今晩、「六家の集い」があるのよ…!」

朱美の言葉に輝がくつくつと笑う。
その小馬鹿にした笑いが癪に触った朱美は輝に食って掛かる。

「何よ、その笑い…」

身体を震えさせながら輝に問う。
朱美の様子に視線を落としてまた、軽く笑う。

「毎回、涼司さんの過去の画像を変に加工し編集した映像を見て何が楽しいか…」

「六家の集い」で行われる神聖な儀式、そう涼司の昔の映像を独自が編集し涼司の魅力を何処迄再現出来るか、そしてそれを見て涼司を懐かしみ語ると言う、
「六家ガールズ」の神聖な集いをこの男は今、何と言った…?

ぶちっと、血管が切れる音が聴こえる…。
ああ、人って怒りが通り越すととても視界がクリアになり冷静になるんだ…。

「輝さん…」

急な朱美の問いかけに輝が柔らかく微笑む。
「どうした」と言った途端、ごき、と言う音が部屋中に木霊する。

朱美の渾身の拳が輝の腹部に命中する。
うっ、と痛みを訴え、顔を歪ませ朱美の前にのめり込む輝に、朱美が蔑んだ目で見つめこう一言、言った。

「一度、地獄を見てこい…!」

地響きがするが如くの低音で朱美が輝に言い放つ。
その言葉に輝が顔を顰め呻きながら言う。

「この、じゃじゃ馬が…!
結婚したら徹底的に妻の心得と言うモノを体中に叩き込んでやる。
覚悟しておけ…」と。

輝の言葉に無事結婚出来たら言え、と冷ややかな目で見つめながら軽く受け流す。

「ああ、すっきりした」と重い腰を擦りながら回りに散らばった衣服をどうにか拾い身体に纏い、ギクシャクした歩行で輝のマンションを後にした…。

そろりと、明け方帰宅した朱美はゆっくりとお湯に浸かりながら輝の事を考えていた。

(今回、何が収穫だったのかしら…?
体中に筋肉痛と見えない場所にくっきりと付けられた所有印、そして輝さんが床上手と言う事だけかしら…。
全然、役に立たないじゃないの…。
眼鏡を取った顔が端正である、とかしかないし。

あ〜あ、どうしたら…!

あ、そうだ!

どうして考え付かなかったのかしら。
侑一さんがいるじゃないの。
侑兄様なら、きっと輝さんの弱点を知っているはずだわ。
だって「六家ジュニア」の中で一番、頭がキレるんだもの♪
良い知恵を授かる事が出来るわ。

うふふふふ、見てらっしゃい高槻輝…!

あの右ストレート以上の報復を貴方に、あ・た・え・て・あげるわ。」

ぞくり、と悪寒が走る。
朱美が帰った後、ベットに臥せっていた輝の背中にたらり、と冷たい汗が滴り落ちる。

(あ、朱美のやつ、あのじゃじゃ馬が…。
女としての行為か、あれは…。
結婚したら徹底的に教育してやる。
心も身体も骨抜きにしてやるから覚悟しておけ…!)

しかし、先程から嫌な汗が、と額からも滴る汗に輝が深く溜息を吐く。
これは絶対何かの予兆に違いない、と現実派である輝の考えとはとても思えない。

しかし輝の予感は的中していた。

そう、これから輝には多大なる災難が降り掛かる。
天敵とも言える更科侑一との実にアホらしいバトルの幕掛けが待っているとは夢にも思わない輝であった。






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