始まりの詩 その5(R18)




「夏流…」

自分の所為で感情が乱され涙を流す夏流を豪は愛おしく思っていた。
そっと手に唇を寄せ自分を見る様に促す。
感度も何度もかぶりを振り頑に拒む夏流に苦笑を漏らしながら夏流の背に腕を回し、自分の膝上に夏流を乗せ、胸元に抱きしめる。
優しく髪を梳き耳元で「愛している」と、甘く囁く豪に夏流の嗚咽がだんだんと収まって行く。
混乱していた思考がはっきりした途端、上半身が素のまま豪に抱きしめられている事に夏流は気付き、離す様に訴えるが一向に聞き入れて貰えない。
流石に恥ずかしくなり抵抗し始める夏流の身体をゆっくりとソファに横たえた。

「ご、豪さん…」と目を見開き耳迄真っ赤に染める夏流の唇に優しく触れる。

キスの合間に、「駄目…」と抵抗をする夏流に豪が熱っぽい視線で射抜く。
今朝方自分を求めたあの表情に、夏流の視線が揺らぐ。

その事に気付いた豪が夏流に優しく話しかける。

「俺が怖い…?」

豪の問いにどう返答知ればいいのか解らない夏流は、そっと目を伏せた。

「俺はね。
夏流の思う様な優しくて穏やかな男ではないよ。」

「…豪さん?」

「今でも夏流をめちゃくちゃにしたい程、夏流を抱きたい。
ずっと欲しかった。
3年前、君に恋をしていると自覚したあの時から、俺にとって夏流だけが抱きたい女だった。」

「だって私はまだ子供で…」と言葉を続けようとする夏流の唇を荒々しく奪う。

情熱的な豪のキスに夏流の言葉が飲み込まれる。
吐息の間に紡がれる言葉に夏流の頬が赤く染まる。

「君が子供だって…?
俺が今、どれだけ高ぶっているか解るか?」

そういって夏流の手を掴み自分の熱の熱さを伝える豪に夏流は顔を真っ赤にしながら戸惑いを隠せない。
夏流の初な様に微笑みながら、豪は夏流のまろやかな胸に優しく触れる。

「夏流がどれだけ俺を煽っているか、知らないとは言わせない。
今の俺の状態を知って、夏流が俺にとって「女」である事は解っただろう?

初めて夏流を抱いた時、俺は理性を無くす程夏流とのセックスに溺れた。
俺にこんな感情を持たせたのは夏流が初めてだ…。」

「豪さん…」

「夏流が欲しい。
抱きたい…」

自分を欲しいと真摯に訴える豪に、夏流は一瞬恐れを感じたが、豪が自分を激しく愛している事の表れだと理解した途端、心の中が熱く満たされていく。
先程、あれほど悩み乱された感情が自分の中で、一気に引いていくのを夏流は感じていた。
自然と豪を求める言葉が唇から紡がれた。

「私も豪さんが欲しい…。
私だけを愛して…」

自分を求める夏流の言葉に一瞬、豪が言葉を失う。
そんな豪に頬を染め目を伏せながら豪の首に腕を回しキスを求める夏流に、豪の思考は完全に奪われた…。

先程から、何度豪の愛撫で昇り詰めたか解らない。
既に意識は靄がかかった状態で、今の自分の状態を判断する事すら出来ない。
ただただ豪が与える快楽に甘い嬌声が出るだけ。
時折うわごとの様に豪の名を呼ぶ夏流に、あの深い目が夏流を捕らえ腰の動きを早める。

目の前にまた、あの感覚が夏流を襲う。
ちかちかと光が弾き、目の前が白くなり体が浮遊する…。

そう感じた途端、何度も「怖い…」と涙を流しながら強くシーツを握る夏流の指を外し自分の首に絡ませ強く抱きしめる。
耳元で「大丈夫」だと何度も囁きながら深く入り込む豪に、夏流は切なく豪の名を呼びながら意識を手放した…。

深い充足感が豪の心を満たす。
色々な感情を豪に訴え最後には豪を求めて愛撫に感じ、そして快楽に身を委ねた。
夏流の心の中に自分を深く刻ませた事に豪は、夏流の気持ちが完全に手に入れた事を実感した。
思わず苦笑が漏れる。
眠る夏流の顔を覗きながら、涙で濡れた頬を指先で優しく触れる。

「夏流…。
君が愛おし過ぎて抑えが利かない。
もっと君が欲しくて、そして俺に溺れさせたい。
この激しい迄の独占欲を知ったら君は俺を笑うだろうか?
それとも俺から逃れ様とするだろうか…?」

夏流に話しかけながらカーテンの隙間から零れる光に夜が開けた事を知った豪は、軽く夏流のキスをし、バスルームに向った。
シャワーを浴び、淡いグレーのニットにダークグレーのジーンズに身を包んだ豪はダイニングで朝食を作っている絹代に微笑みながら挨拶をする。
一人、豪しか二階の寝室から降りて来ていない事に絹代は深いため息を零した。

「…また夏流さんのお目覚めは午後になるのですか、豪様?」

初めて夏流と別荘で夜を共にした次の朝、明け方迄求めてしまった所為で夏流が意識を取り戻したのが昼過ぎだった事に軽い非難を込めた目で絹代が見つめながら、
小言を言っていた事を思いだしていた。

苦笑を漏らしながらそう伝えると絹代が、「私は夏流さんとゆっくり会話をする時間を頂く事が出来ないんですね」と恨みがましく言う。
流石に情事が激しいと非難されていると感じ、バツが悪くなって来た豪が何度も済まない、と絹代に詫びる。
そんな豪の様子に絹代は目を細め微笑む。

「豪様が女性の事で狼狽える様子を見る事になるなんて、路子様がご覧なられたらどう思われるでしょう?」

「…軽く非難して俺の行いに仕様がないと微笑んで、そして夏流に対して深い愛情を注ぎ込んでくれると思っている。」

「豪様…。」

「絹代さん。
豪様、と言うのはいい加減にやめてくれないか?」

「…」

「貴女は俺の実父の義理の姉になるのだから…」

「…いいえ、豪様。
それは意に反する事です。」

「…絹代さん」

「貴方のお父様である蓮…、蓮様は確かに私の義弟として育って来ましたが、本当は正当なる門倉財閥の跡取りと生きるはずでした。
そんな方を義弟としてお呼びしていた事自体、恐れ多い事だと私は思っています。」

「…でも父は門倉を受け継ぐ事が出来なかった。
父親の出自自体が公にする事が出来なかったから…。」

「…」

「貴方達のお陰で俺は今、この世に生を受け愛する人と巡り会う事になった。

俺は感謝しているよ、絹代さん。
今、とても満ち足りているから…」

そう伝える豪の目が幸せな光を称えている。
絹代の目に涙が溢れる。
今、路子がこの豪の姿をみたらどんなに喜ぶだろうか…!
ずっと望んでいた豪の幸せの姿を見たら。

「豪様…」

「本当に幸せなんだ…」

そう言葉を伝え夏流のいる寝室へと向う豪に絹代が優しい視線を落とす。

朝食を済ませた豪が夏流のベットに座り、顔を近づけまた唇に触れる。
柔らかい感触に豪の熱が灯る。

「夏流、愛しているよ…。
君を愛した時から、俺の今迄止まっていた感情が動きだした。
「門倉豪」としての俺の運命が始まりだしたんだ…。
君が俺を変えようとしてくれた。
夏流、君は知っているだろうか?
俺が今、どれだけ幸せか。
どれだけ心が満ち足りているかを君に伝えたい、夏流。」

だから早く目覚めて俺を見て、とそういいながら豪は夏流を愛し始める。

豪の愛撫に反応した夏流の瞼がぴくりと動く。
視界が明るくなり目の前に豪のあの深い目が映る。

「豪さん…?」と心許ない夏流の言葉に微笑みながら豪は夏流に伝える。

「愛しているよ、夏流」、と。

豪の告白に目覚めた夏流が眩しい迄の微笑みを向け豪の首に腕を回す。
「私も貴方だけを愛している」と頬を染めて伝える夏流が愛おしい。

俺は君をこれからもっと深く愛していくだろう。
始まりだした俺たちの運命。

君の中に俺を強く刻ませて、「俺」の存在を君だけが知ればいい…。
本当の俺は君無しには始まらないから。

今、俺は自らの意思で生きようとしている。

「ねえ、夏流。
俺は今、とても幸せだ…」

自分の中にある全ての感情が君によって作られていく。
その喜びを豪は感じながら、夏流をまた強く求めていくのであった…。






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