Act.9 それぞれの親友達 その2 「だからどうして二日連続で俺の所に来る?忍!」 壮大に溜息を吐きながら透流は、忍にくどくどと文句を言い出した。 忍はと言うと、あの後、夏流となんとなく気まずくなり、昼頃、急遽帰ると言い出した夏流と口論となり、鬱憤が溜まり自分の胸の内を吐きたくて、 夕方に透流のマンションに押し掛けた次第だ。 透流にとって本当に迷惑な話だ。 「…なあ、透流。 どうしたら夏流は俺の事を一番に考えてくれる…?」 か細い声で言う忍は普段の彼とは思えない位、落ち込んでいた。 忍の言葉を聞いて透流は「勝手に言ってくれ、このノロケ野郎が!大体、それを俺に言うか普通…」、と心の中で呆れ果てていた。 しかし透流の性分とも言えるのであろうか…? 落ち込む忍を見て放っておく事が出来ないのである。 「で、今回は何が原因だ?」 律儀に聞く当たり人が好いとしか言えない。 「…料理。」 「はああ?」 「俺が朝食を作ったのだが、それがどうも夏流よりも上手かったらしい。 それに夏流が考え込んで…。」 忍の意外な言葉に驚く。 「お、お前、料理が出来たのか? 全然、そういう素振りを見せなかったじゃないか!」 「ああ、料理は4歳の時からな。 坂下家でもちょくちょく作っていたし。 まあ、自分で作らないと存命の危機に陥ったから。」 「…それって、もしかして母親が料理が下手だったと言う?」 「ああ。 破壊的にへたくそだった。 だから俺は自分の奥さんには自炊が出来る人が、まず第一の条件だったから。 夏流はその点、クリアしていると思っていたけど、本人は自信を無くしたって…。」 「お前、そんなに上手いのか?」 「う〜ん、どうだろう。 ただ、食べた人間が涙を流しながら上手そうに食べていたな。」 「それって、坂下家の家族?」 「ああ。 それと五家の人達。」 (そりゃあ、涙を流して食うだろうな…。 あの方々は忍に関して異常だから。) 「…なあ、夏流にどうしたらプロポーズでOKを貰えるんだろうか?」 持参したブランデーを飲みながら静かに言う。 神妙な趣の忍に、透流は真顔で聞いた。 「…難しいか?」 「ああ、かなり。 夏流は無意識に俺との結婚を拒んでいる。」 「…」 「愛されているのに…。 何故だろう。」 寂しく微笑む忍に透流は言葉をかける事が出来なかった。 「だからどうして二日連続で私を呼びつけるの!夏流。」 「だって〜! 忍さんの事を言えるの、美咲しかいないんだもん!」 「…ははは、それは私に自分がどれだけ愛されたかを自慢したかった訳ね、夏流」 「え…?」 「項にくっきりとキスマーク」 「いやああああああああ!」 真っ赤になり、慌てふためいて叫ぶ夏流を見ながら美咲は苦笑した。 「忍さんのバカああ。 本当にいつもいつもあの人は…!」 涙ぐむ夏流に冷静に質問する。 「…で、今回は何が原因なの?夏流」 「…」 「言いなさいよ。 二日連続付き合ってる私の身にもなってよ。 本当に迷惑なんだから」 「…ご免なさい、美咲。 実は…、料理の事なの」 「え?」 「忍さんが私よりも断然、料理が上手だったの! 私、本当にショックで。 だってあの性格でしょう? 絶対に料理を作ったらいちいち味について文句をいいそうだもの。 それを考えると真面目に付き合いに悩んで…」 「アホらしい」 夏流の言葉に今迄、自分が真剣に対応していたのがバカらしくなった。 無意識に夏流は自分にノロケを言ってるに過ぎない。 「この無自覚が…」の心の中で舌打ちしながらも、説教をする当り、美咲は夏流の事を大切に思っていた。 「だって、これで洗濯に掃除も完璧だったら、女としての私の立場は? それで無くても顔も、年収も、全て敵わないのに…」 夏流の言葉にぷっと吹き出しながら言葉を零した。 「…負けず嫌いなんだ、夏流は。」 美咲の言葉に思わず反論する。 「違う…! そうでは無いの。 私、彼と付き合うのに自信が無いの。 10年前、付き合っていた時は彼に対する恋愛感情が解らなくて、別れた時、彼に対する気持ちを自覚して。 そして再会して、付き合いだして、正直困惑している。 10年前の忍さんと今の忍さんは違うんだって事に…。 私が知っている忍さんは過去の彼であって、それ迄の彼の事を知らずに付き合いだしたら、彼は凄い人で…。 私は彼に相応しいとは到底思えない。」 「…だから過去の彼の性格を今の彼の中から探して、その事について言うのね。 そうしないと自分を保てないから? 彼のプロポーズに文句をつけたのも、結婚を拒んでいる所為?」 「…」 「夏流」 「…自分の立場を解っているつもりよ。 それに私は自分の今の生活を壊したく無いの。」 「だけど付き合いだしたら、必然的に結婚の話は出るわ。 夏流の話を聞いて、彼は夏流との事を真剣に考えている。 夏流は…。 彼の想いから逃げているのね。 それは卑怯よ!」 「何を知ってそんな事を!」 美咲の言葉に突っかかる夏流に制する様に言葉を紡ぐ。 「夏流が中途半端な気持ちでいたら、真剣に考えている彼はどうなるの? お互い年齢的に、そういう事を考える年齢である事は実感してるよね。 夏流は恋愛はしたいけど責任は負いたく無いんだ。 結婚となると色々な事が絡んでくるからね。 確かに責任を伴わない恋愛はある種、自由だけど、だけど、それでは本当の意味での幸せに繋がらない。 夏流は彼の真剣な想いから目を逸らしているのよ、無意識に!」 「もうやめて!」 「…自覚しているのね。」 美咲の言葉にぼろぼろ涙を流しながら夏流は囁いた。 「そんな事、最初から解っている…」 |