Act.4 それぞれの親友達



「だから、夏流と喧嘩したからと言って俺の所に来るなよな…」

げんなりした様子で忍の訪問を迎え入れた透流は、リビングで忍と酒を酌み交わしながら愚痴を零した。

そんな透流の言葉にしかめっ面をした忍がボソリと一言、呟く。

「そういってもお前の所しか夏流の事が言えないだろう、透流。」

余りの忍の一言に呆れ果てては項垂れる透流。

「…普通なああ、忍。

お前、常識で考えて見ろ。

俺の初恋の相手が夏流だって事知ってるだろう?

そもそも、俺たちが上手く行かなかったのはお前が原因だぞ、忍。

恨まれて当然な事をしたお前と俺がどうして、こう毎回付き合わないといけない?」

透流の言葉に、思いっきり不機嫌になる忍。

「…それは済まない事をしたと思ってる。

だけど、お前、夏流に振られてからその後裕美さんと結婚しただろ。

裕美さんとの事に関しては、俺は惜しみなくお前に協力した。

それはスルーされる問題なのかな。」

ねちねちと嫌みを含んだ口調に、透流を額に手をかざす。

(あああ、こいつは本当に…。

夏流の事に関しては常軌を逸してるからな。

夏流に振られた次の日に、落ち込む俺の目の前にこいつが現れて言った言葉を今でも憶えているが、あれには流石に怒りを通り越して呆れてしまった。

なんて言った?

ああ、そうだ。

「俺は昨日、夏流と別れた。

だから君に頼みがある。

夏流の側にいて夏流を見守って欲しい。

今の俺にはその資格が無いから。

俺が夏流との未来を重ねる迄、君に夏流の力になって欲しい。」

あの言葉を聞いた時、何バカな事を言ってる、ふざけんな、と罵倒したな。

その後取っ組み合いの喧嘩に発展して、そして、今に至る…かあ。

はあああ、何故か何時もこいつのペースに乗せられて、その後、夏流との交流を途絶える事も無く…。

忍に夏流の事を、逐一教える俺って本当にバカだ。

バカだが…。

だが、こいつの心情を垣間見た途端、その言葉を飲み込んでしまった。

何時だろうか?

こいつが夏流の写真を見たときの、あの、何とも言えない切ない表情は。

震える手で何度も何度も夏流を確かめる様に触れる様は。

どうしてまだ会おうとしない?

もう充分、お前は夏流の為に、いや過去の自分に決着が着いたではないか?

なのに何故、会おうとしない?

何度も聞こうとした。

だが、聞けなかった。

こいつにはこいつの愛し方があるんだと言うのが解ったから。

だから俺はこいつに夏流の様子をずっと伝えていた。

夏流は今でもお前の事を忘れていない事を…)

一息つき、透流は忍を見つめた。

珍しく酔っている様子に透流は苦笑した。

(飲んでも酔う体質ではないこいつが、ね…。)

リビングを出て携帯に手をかざし、そしてある場所の番号に電話した…。

「ねえ、夏流。

本当に良かったの?

これ、産地直送の無農薬の野菜でしょう?

美味しいと評判のモノをネットで検索して買い付けたって言う。

お肉に至ってはデパ地下で最高級のモノじゃないの。

お給料日前なのに随分張り込んだって言ってた食材を私が本当に食べていいの?」

「いいのよ!

忍さんなんて、食材なんて買えばいいだろうと言ってバカにしたんだから!

私の気持ちなんて全然おかまい無しのあの言葉!

本当に腹が立つ!

それに食材だって、忍さんに食べられる事を望んでいないわ、きっと。」

一方、忍とのデートを中断し帰宅した夏流は親友である美咲をマンションに誘った。

忍と食事をしようと思い買った食材で直ぐさま料理し、食しながらお互いの恋バナに花咲かすのだが…。

夏流は忍に対して愚痴しかでない。

そんな夏流にうんうんと頷きながら、美咲は心の中で苦笑していた。

「夏流。

私、夏流にずっと以前から聞きたいと思ったのだけど。」

「何?」

「どうしてそんなに好みではない男性と付き合っているの?」

「…え」

美咲の急な問いに困惑顔な夏流。

そう、自分は確かに忍の顔は好みではないし、性格に至ってはもう…。

あんなに子供っぽくて、自分のペースで物事を運んでいつも一方的で、振り回されて…。

深く溜息をつく夏流に淡く微笑む。

「理屈ではないか」

「…。」

「そうなんでしょう」

「…うん。

そうなの。

好きに理屈を当てはめたって、どうにもならない。

私の心を捕らえて離さない人。

どうしようもない程、好きな人なの…!」

「なら、許してあげたら?

夏流だって、子供っぽい事をしたって思ってるんでしょう?」

「…」

「私、帰るわ。

今からでも電話して仲直りしなさい、夏流。」

「美咲…」

帰る美咲を玄関先で送りながら夏流は、今日の出来事を考えていた。

(仲直りね。

う〜ん、確かに私も感情に走ってしまった事だし。

そうよね。)

テーブルの上に置いてある携帯に手をかけようとした瞬間、携帯が鳴りだし事に一瞬ビックリした夏流は電話の相手に苦笑した。

「こんばんは。

どうしたの?透流君。

久しぶりね。」

「夏流。

今から俺の家に来てくれないか?」

「え?」

透流の突如の申し出に戸惑いながらも、その後に続く言葉に夏流は絶句の余り言葉を失うのであった…。








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