Act.42 重なる未来




あれから10年が経った。

私と言う存在を認め、解放してくれた彼とは、あの後一度も会っていない…。

高校を卒業した私は、母の病院付近に就職し、一人暮らしを始めた。

叔母夫婦が私が高校卒業を機に北海道の転勤から帰ってきた。

沢山の喜びを抱えて。

そう、叔母が妊娠したのだ。

私にとって初めてのいとこが出来た。

男の子だった。

その後も男子、女子といとこが増え、私の回りはとてもにぎやかになっていた。

職場は小さな工務店で、とても温かい雰囲気の職場だ。

事務の仕事も毎日が定時に終わり、職場を後にしたその足で、私は母の見舞いに行く。

何時迄母の身体が持つかは予測出来ないと医師に言われた私は、時間が許される限り母との思い出を作ろうと思い、就職を希望した。

最初、学校側から強く進学を勧められたが、私の決心は変わらなかった。

学ぶ事は自分が望めばどんな風にでも学ぶ事が出来る。

でも今、心に思う事はその後の続くかと言うと、それは断定出来ない。

そう思うと私は今この気持ちを占める思いを優先させた。

透流くんとは今でも時々会っている。

彼の家族と…。

あの後、私は彼に別れを告げた。

初恋の終わりであった…。

透流くんは少し悲しそうに微笑み、私の気持ちを受け入れてくれた。

その後、彼は理学療法士になり、二年前に結婚した。

そして今では一児の父親だ。

彼も過去を乗り越え、今は誰よりも幸せな家庭を築いている。

その事に私はとても喜んだ。


親友と呼べる人もでき、そして何人かに交際を求められたが、付き合う事は無かった。

彼の存在が心の中に強く残っていたと言う事を思いっきり実感させられた私は、思わず苦笑した。

(なかなか彼の存在は手強いって訳ね。)

毎日が充実してそして、毎日が大変で…。


時間は確実に進んでいる…。

「さて、ぼちぼち洗濯物を取り込まないと。

日が陰るのも最近早いから…」

帰る支度をするべく、病院の屋上で洗濯物を取り込みに上がった私は、ふと、一人の男性と出会う。

その人は、とても背が高く、そしてとても綺麗な顔をしていた。

オフホワイトのVネックにそしてダークブルーのジーンズに身を包んだ彼が、私に気付いて近づいて来る。

目が合った途端、言葉に詰まった。

だんだんと近づく「彼」に私は自然と涙を零していた。

目の前に立った彼は微笑みながら、私にこう、話した。

「初めまして、成月忍と言います。

以前から貴女の事が好きでした。

僕と付き合ってくれませんか?」


溢れる涙を止める事無く見つめる私をそっと、抱きしめる。

その言葉に私は抱きしめる彼の背中に腕を回し、そしてこくりと、頷いた。

彼の腕の力が強くなる…!


「やっと、君に辿り着いた。

夏流。

君を誰よりも愛している。

永遠に…」



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