Act.4 天は我の味方か、それとも最大なる敵か


世の中、どうしようもなく、不運が続く事がある…
人生の中で、最大なる不運は既に体験済みなので、これ以上の事はあるハズは無いと、信じて疑っていない。

だけど。

だけどね!

天に見捨てられた身なので、何を今更と、悪態つくのもバカらしいと思うけど、でも、天に罵りたい!

どうして、私を虐めるのが好きなのよ!

涼しい顔で、私の後をついて来る坂下忍の所為で、私は、下校中の生徒達の好奇の的じゃあないの!?

ああ、明日になったら、多分、いや、絶対に全生徒の噂の渦中にさらされて、そして、坂下忍親衛隊(あるのよね、この男には)
の女子に詰め寄られ、尋問にあって、いじめにあって、古典的な嫌がらせを卒業する迄、されるんだきっと!

ああ、何故、天は私を、心穏やかに過ごさせてくれないのよ。

卒業迄後、一年半…。

絶対に、私の人生設定を狂わす事があってはいけないのよ!

だから、誰にも深く接する事も無く、淡々と交友関係を続き、いるかいないか解らない様に、存在をひたすらひた隠し、
成績を常に上位にキープして、先生達の評価もそこそこいい様に頑張ったのに…。

なんで、あんたの存在を認識しない私に興味がわくのよ。


バカじゃあないの?

世の中、全ての女が自分にふり振り向くなんて、間違った固定観念を持つから、しっぺ返しがくるのよ。

まあ、確かに切れ長の目に、すっきりとした鼻梁、そして、薄い唇が綺麗に、顔の中にありますよ。

そこらへんにいるアイドルよりも、綺麗じゃあないのですか〜

でもね、悪いけど興味が無いのよ。

好みじゃあないの!

ふふん、まさか、振られるとは思っていなかったのよね、きっと。

そういう挫折を味わった事が無いから、きっと、腹いせに私につきまとうのよ。

なにが、強いて言えば好きよ。

告白に、強いて言えばって。


どうゆう意味よ。

人をバカにするのも、大概にして欲しいわ。

まあね、貴方が今迄付き合ってきた女性達に比べて(比べるのも悪いけど)綺麗とは言いがたいけど、ね。

ああ、あの目。

あの人を小馬鹿にした、あの視線。

大嫌い!

ああ、もう、むかついてきた。

言葉をかけられたら、私、冷静でいられるかしら。

心臓がばくばくいって、治まりがつかないんだけど。

時間よ、早く進んで…、お願い!


一人、考えに取り付かれてる夏流の表情を見ながら、忍はひたすら、苦笑を漏らすしかなかった。

己の考えに夢中になっていた夏流は、いつの間にか側に並んで歩いている忍の存在に、全然、気付いていなかった。

忍は横目でちらりと彼女の表情を促してみると、蒼白になって、自分の考えに浸ってる夏流は、今迄、自分がイメージしていた彼女とは、
余りにもかけ離れていた。

もしかしたら、これが彼女の隠された部分なのか?

ああ、こんなにも感情が顕著に表すタイプだったんだ…。

この表情を見ると、本当に嫌がられているんだな。

くすり、と笑いを零しながら、深い考えに捕われて浮上しそうもない夏流が余りに不憫に思い、忍は夏流の顔を覗き込んで声をかけた。

「何をそんなに悩んで…」

「え?」


かたんと音を立てて、眼鏡が道ばたに落ちた。

ふいに、覗き込まれた忍の顔に驚いた夏流は、顔を上げた拍子に忍の肩にぶつかり、かけていた眼鏡がするりと落ちた…。

眼鏡を拾おうとして、屈もうとした夏流は、真上で自分を痛い程見つめる忍の視線に気付く事が無かった。

その時の忍の顔を見たら、夏流は彼の告白を素直に信じたかもしれない…。


それは、彼を知る者が見たら、信じられない程、滑稽な場面だった。


天は彼女にとって、本当に敵なのか、味方なのか…。


答えは、然程時間を要する事無く、彼女の前に示されるのであった。



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