Act.3 変化を好む人、変化を好まない人



時計を見ると、いつの間にか6時を過ぎていた…。


図書室で、本を読みふけると時間の存在を、つい、忘れてしまう。

夕日が陰ってきて、やっと時間の経過を知った夏流は、すぐさま、帰宅の準備に取りかかった。

「今日もまた、私は一つ、現実へと近づいて行くんだ…」

ほうっと、息を吐きながら、一歩一歩近づく「現実」に、夏流は顔を歪めた。

考えても仕方がないのに、どうして私はいつも、考えるんだろう?

答えはもう決まっている。
今、心の中を翳める現実は、未来に確実なる姿として、自分の前に現れるのに…。
それをもう、受け入れると心に決めているのに…。
なのに…。

なのに!
私は何をこんなに躊躇っているの?

どうしようもない事を何故、こうも思い悩むの!?
人の心の変化は否応がなく、起こりうる事。
それを解らない子供でもないのに、でも、私はそれを否定する。

「私は…。
一体、どうしたいの?」

ふと、自分の考えに一つの結論もでない事に気付いた夏流は、変化する空の動きを目を細めて、見つめていた。

「そんな顔もするんだな?」

背後から、近づいてくる存在に、思わず舌打ちした。
嫌なやつに出会った…。

心の中で、そうつぶやきながら、夏流は声の主に返事をした。

「それが貴方にとって、そんなに珍しい事なの?」

苦笑混じりの溜息に、彼が自分の言葉に対して、怒りを示さないのが意外だった。

自分は一応、彼に皮肉を言ったつもりだったのだが?

「そうだな。
珍しいかな?
俺にとって君の印象は、いつも鋭い視線で、回りを見つめているから。
そんな風に、惚けた様子で、空を見つめるとは思わなかった。」

「惚けてる?」

「ああ。」

「そんな風に見えたのなら、そうかも知れないわね」

「…」

「失礼するわ」


「なあ、藤枝。
俺と一緒に帰らないか?」

「嫌です。
一人で帰りたいし、ましてや、今日、告白を断った人と、どうして一緒に帰らないといけないんですか?
丁重に御断りさせて頂きます。」

「あ、そう。
なら、君の後を付けて、帰らせてもらうから。」

ニヤリと笑う忍の顔を見て、あからさまに嫌悪を振りまく夏流の様子に、忍は笑いをかみ殺すのに必死だった。

ここまで、自分の事を嫌がる女に何故、執着するんだろう?

自分の存在を彼女に誇示したいが為か?
自尊心を傷つけられた為か?
そうではない。
いや、最初はそうであったとしても、今は違うと言い切れる。
ただ、純粋に興味がある。
他の女子とは違う、彼女の見つめる視線の先が何か。
いつも、人を映していない瞳に、何を求めてるかが知りたいと思った。
そして…。

女として、自分の事を意識して欲しいと言う、微かな欲望。

忍は笑った。
ふと、今、自分の心に浮かんが思いに。

(ああ、そうか)

これが今、自分に起こっている確実なる変化の現れなんだな…。


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