Act.25 自覚


「最近の忍て、なんかこう得も知れぬ色気を漂わせているとは思いませんか?」

「そうよねえ。

確かにこう、見ていると体の奥底がぞくぞくと震える感じは確かに」

「まあ、流石、忍さん。

私の自慢の孫ですこと。

誰かさんと違って、麗しい事。」

「本当に。

どうして同じ坂下家の男性なのに、忍とこう出来が違うのかしら。

我が息子ながら、「少し」情けないわよね。」

「あら、最大限よ。

お母様。」

「朱美、それは禁句ですよ。

一応、貴女の兄なんだから。」

「そうです」

「…」

少し離れた場所で珈琲を飲んでいた豪は、盛大に顔を顰め、3魔女を見つめいた。

(はいはい、悪うございましたね。

有り難い事に、俺は忍を違って、貴女方を引きつける様な魅力は一切持ち合わせはいませんよ。

しかし、毎回忍が相手をしなくなった鬱憤を、俺に対しての嫌みで晴らさないで欲しいよな…。)


最近、坂下家の3魔女達の休日は、忍の話題でお茶を開くのが恒例となった。

その場に強制的に毎回付き合わされる豪は、ほとほと困っていた。

婚約者とのデートもこのお茶会の所為で、休日はいつも夜しか出来ない。

(まあ、今年中には挙式を上げ新居を構えるから、この拷問とも言える茶会参加は結婚を機に、多分無くなるだろう。

そう踏んでいるが、この3魔女の事。

絶対に俺の婚約者を引き込んで、もっと頻繁に催す可能性を漂わせている。

いや、絶対にそうだ。

怖い事は、美樹がこのお茶会に興味を興味を持ち、積極的に参加すると言い出す事だ。

美樹はまだ、忍を直に見た事が無い。

今度の日曜にでも逢わせようとは考えているが、今の忍は祖母達が言う様に壮絶な色気と言うか、フェロモンを漂わせている。

逢わせた途端、俺の事よりも忍に夢中になるだろうな。

まあ、恋愛感情ではなくて、アイドルにハマる感じだとは思うが。

これで4魔女になったら、俺の立場は…。

頼むからこれ以上被害を出さないでくれ、忍!)

悲壮感漂う豪の姿を見て3魔女たちは、「本当に冴えない男」と同時に呟き、壮大な溜息をついた…。


屋上では、夏流が透流との突然の再会に表情を無くしていた。

(どうして、透流くんがここに…?)

「久しぶりだね、夏流。

逢いたかった。」

柔らかい微笑みを浮かべ夏流にタオルを差し出す。
震える手でタオルを受け取り、見つめ直す夏流の目は潤んでいた。

ぽつり、と涙が頬を濡らした。

「夏流…」

夏流の頬に触れて涙を拭い、何度も何度もカタチを確かめる。

目を見開き透流の行動を見つめてる。

「綺麗になったね。

思っていた通りだ。」

透流の言葉に、夏流は目を瞬きそして、ぷと、吹き出した。

「いやだ、透流くん。

カッコいいのに、相変わらずね。」

「そっか」

「うん」

身長の高さも顔の造形も、確かに忍の方が勝っている。
だけど、透流の言葉も笑顔も裏が無く、とても温かい。

ずっとずっと、好きだった笑顔だ。

そして自分達の存在が、この笑顔に陰りを与えてしまった。
そう思うとここで透流と話すこと自体罪だと、夏流は自分を叱責した。

夏流の心の機微を感じたのか、透流は諭す様に話しかけた。

「夏流はずっと、自分を責めてるけど、夏流が悪い訳ではない。

責められないといけないのは、夏流ではなく俺の存在だよ。」

透流の言葉に夏流はすかさず言葉を遮った。

「それは違う!

私の存在がなかったら、私達との出会いがなかったら、達流おじさんは。

おじさんは事故で死ぬ事はなかった。」

「…それは夏恵おばさんもだろう、夏流。

俺たちがいなかったら、あんな風に交通事故に巻き込まれず、意識不明になる事はなかった…

ずっと、言いたかったんだ。

自分を責めないで欲しいって。

それを言うのに時間がかかったけど。

でも、やっと言えた。

夏流…。

俺は今も夏流の事が好きだ。

ずっと、好きだった。

俺たちが異母兄妹だとずっと悩んでいたときも、俺は。

夏流の事を異性として、ずっと想っていた」

透流の衝撃とも言える告白に夏流は言葉を失った。

「…え」

「ずっと、好きだったんだ、夏流」

ふわりと自分を包む優しさに夏流は目を見張った。
そして、加わる腕に力に目眩した。

(抱きしめる腕がなんて優しいんだろう。

なんて温かいんだろう…。

ずっと、望んでいた。

そうだ。

そうなんだ。

私はまだ、透流くんの事を…。

透流くんの事を好きなんだ。)

心の中に鎮めていた想いは透流との再会によって、動き出したのであった。





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