Act.1 それは一つの始まりの予感
「俺と、付き合わないか?」 突然の告白だった。 この16年間、男子からの告白を受けたのも今日が初めてで、そしてこんなに近くに男子と話すのも、初めてだった。 近距離で見つめる「彼」は、男に興味の無い私でも、どきりとさせられた。 それほど、彼は綺麗な顔立ちをしていた。 「どうして、私なの?」 「付き合いたいのに、はっきりとした理由を聞きたい?」 「それは、勿論」 「興味があるし。 強いて言えば。 好きだから、かな?」 唖然とした。 なんて陳腐でおかしいんだろう? この「私」に興味がある? 好きだって? ああ、これは新たなるジョークなんだろうと、彼を一瞥してその場を去ろうとした。 立ち去ろうとする私の腕を掴んで、彼は魅力的な声で、私にこう言った。 「返事は?」 「勿論、御断りします。 私、貴方の事興味が無いし、それに全然好きではないから。 では、失礼します」 掴まれた手を振り払い、私はその場を早足で立ち去った。 その時、彼がどんな目で私を見つめていたか、私は知らない。 でも、どうして私なんだろう…? 告白した彼、坂下忍は同級生であり、学内で1、2位を争う程の美形であった。 学力も常に上位をキープ、そしてスポーツ万能とくれば、女子が放っておくハズが無い。 彼が告白されているシーンを、何度も見かけた事がある。 一度、彼が告白されている所を遭遇してしまい、嫌な思いを味わった事がある。 あれは、何時だったんだろう? 思いを巡らしていると、いつの間にか予鈴が鳴っていた。 ああ、今日もまた一日が始まる。 深い溜息がこぼれた。 美形に告白されても、私、藤枝夏流の日常は、何一つ変わる事は無かった…。 |