Act.8  六家の集い その1



「朱美、久々に六家の集いを行うわよ。

当然、欠席は認めないから時間厳守でお願いね!」

突如、その電話がかかってきた。

その電話の主は朱美の幼なじみであり、輝の妹である志穂であった。

「もう、志穂ったら久々の電話で言う事はそれなの?」

「じゃあ、お兄様との婚約、おめでとうって言ったあげた方が良かったかしら?」

明らかに皮肉を多大に含めた口調に、朱美は携帯越しで項垂れていた。

「…お願いだからその話はやめて、志穂。

私、相当落ち込んでいるのだから」

朱美の気落ちを知っての言葉か、志穂の口調は何処迄も辛辣だった。

「あら、愛しの忍君を独り占めしている報いよ。

本当に朱美達はずるいんだから。

涼司さんの息子である忍君を引き取っただけでは飽き足らず、休日はいつもデートですって?

私達、五家の立場を考えた事って無いわよね、その様子では…!」

ちくちくと身体に突き刺さる嫌みは、朱美を更に精神的に落ち込ませた。

「解っているわよ。

だけど、貴女達にしーちゃんを会わせると、当然、涼司さんの事で話が盛り上がるでしょう?

そうなると、しーちゃんに7年前の事故を思いださせる様になるから、それだけはどうしても阻止したいのよ。

だから…」
朱美の真剣な口調に、神妙になる志穂。

「…それは解っているわ。

だけど、私達だって忍君に会いたいし、色々と話をしたいのよ。

最近の忍君は、涼司さんの若い頃にそっくりだとお兄様から聞いたから。

もう、お兄様もずるいんだから。

何かと理由をつけては忍君と話をするんでしょう?

どうしてお兄様はいい訳?朱美。」

急遽、振られた言葉に一瞬、返答に困ってしまった。

そういえば、どうして輝さんはしーちゃんと会っているんだろう…?

思案しつつ、朱美は適当な言葉を探して志穂に返答した。

「まあ、兄の豪が一光にしーちゃんを連れて食事に行くからではないの?

確かに一光の食事は素材も一流だし、味は絶品だからしーちゃんも気に入ってる様だし。」

朱美の言葉に志穂の瞳がきらりと光った。

「じゃあ、私もちょくちょく一光に食事に行こうかしら。

そうすると忍君の姿を直に見る事が出来るし、少しならお話だって。

うふふ、お父様と同じ行動になるけど。」

志穂の意外な言葉に目を見開く朱美。

「え?

志穂のお父様、一光によく行かれるの?」

朱美の言葉に今更何を?と言いたげに言葉を投げる。

「当たり前でしょう?

お父様が私達以上に、忍君にお熱なのは今に知った事では無いでしょう?

毎回お兄様に、忍君が一光に来たらすぐ連絡を入れる様にと、念を押しているわ。

まあ、お兄様も朱美との事があるから、お父様の言葉に従順しているけど。」

「どういう事?」

「今回の結婚で当然、忍君とは親族になるじゃない?

義理とは言え忍君の父親の立場になるのだから、お父様は朱美との結婚に大乗り気よ。

もう、お兄様から婚約の報告を聞いたお父様のはしゃぎっぷりときたら…!

ただ貴女方坂下家を含めた五家が、この結婚に猛反対なのは解っているので、食い止める為には、
お兄様達「六家ジュニア」とお父様が協力しないと、ね。

まあ、お兄様達「六家ジュニア」は皆、お兄様と朱美の結婚に大賛成だし…。

当然、私もね。

ああ、やっと愛しの忍君に「お姉様」って言われるのね…。

本当に待ち遠しい事!

頑張ってお兄様との結婚を三ヶ月後に迎えれる様にするから、心配しないでね、朱美♪」

うっとりと言う志穂のトドメの言葉に朱美はみるみる頬を紅潮し、怒りを再熱した。

そう、先程迄、鎮火していた輝に対しての復讐の熱がマグマの如く噴火していた。

「…朱美?」

「ごめんなさい、志穂。

ちょっと急用があったので、電話を切るわね。

明日7時、いつもの場所よね。

解ったわ、お休み」

プツリ、と携帯を切った途端、朱美はすかさず輝に電話した。

何度目かの発信の後に輝が出たが、輝の声と一緒に微かにジャズが聴こえてきた。

(どこかのバーにでもいるのかしら?)

さして気にせず朱美は自分の用件を淡々と話した。

「輝さん?

昨晩から今朝にかけて大変、お世話になりました。

お世話になったついでに、今晩もお世話になりたいと思うのだけど、今から会う事が出来ませんか?

私…、輝さんとゆっくりお話がしたいの。」

からん、と氷が落ちる音が聞こえた。

手にグラスを持っていたのであろうか…?

少しの沈黙の後、輝の声が聞こえた。

微かに笑っている様だ。

そう心の中で思いながら、朱美は輝の返答を待った。

「それは俺に抱かれたいからと言ってる言葉だと考えてもいいだろうか…?」

何処かからかいを含んでいる様子に朱美はますます怒りのボルテージを上げていたが、はたと自分の本来の目的を思いだし、冷静に返答した。

「そう思って頂いても結構です。

私…、輝さんの事をもっと知りたいから…」

少しの間輝が躊躇っているのが窺えたが、それはきっと気のせいだと、朱美はかぶりを振った。

ぞくりと、身を震わす声が携帯越しに耳を翳めた。

「では、今から俺のマンションに来てくれないか?

俺も今から戻るから。」

輝の言葉に短く返答して、朱美は携帯を切った。

強く携帯を握りしめながら朱美は、これから輝との間に起こる行為に身体を強張らせた。

携帯を強く握りしめる手に微かに震えが走る。

(落ち着いて、朱美。

しーちゃんを守る為なら、何だって出来るでしょう?

そうよ!

絶対に高槻家の思い通りに事を運ばせないんだから!)



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