Act.7 余りにも馬鹿げた因果関係 その2



「久々に六家の集いがあるぞ。

明日の夜、一光で7時となっている。」

高槻グループの経営するホテルのラウンジで2人は酒を嗜んでいた。

輝の急な言葉に、豪は顔を顰め反応した。

(ああ、こいつ、とうとう他の奴らに朱美との婚約を話したのだな…

これからが本当に戦争だぞ、輝。

お前、事の顛末が本当に解っているのか?)


豪の悲愴な表情に輝は不敵にも笑いを深くする始末。

まるで今から起こる事を心から楽しんでいる様子だ。

そんな輝の姿を見る豪は…、かなり複雑だった。

心無しか言葉迄重くなる。

「輝、お前、本当に五家を敵に回すのか?

その覚悟を最初から持っているとは思うが、念のためもう一度聞く。

本当に朱美と結婚するつもりなんだな?」

神妙極まる豪の様子にくすくす笑いながら輝は、言葉を転がす様に話した。

「勿論だとも。

当たり前の事を聞かないでくれるか?」

輝の言葉に、豪は自分の迷いを振り切る様に話した。

「では、俺は何があってもお前の味方につくよ。

多分、他の五家の奴らもそうだが…。

親父達は皆、全力を挙げてお前達の結婚に反対するだろうな。」

「それも解っていての婚約だ。

俺は絶対に朱美と3ヶ月後に結婚する。」

輝のきっぱりと宣言する様子に頼もしさを感じつつも、これから起こる事柄に豪は身震いした。

『六家』

こう呼ばれるのは、俺たちの親父達の事から由来する。

別名、成月涼司追っかけ隊、いや親衛隊と言う方がまだ言葉が綺麗だろうか…?

まあ、綺麗も何も、親父達が涼司さんに盲愛している事を揶揄しているって言う方が正しいか。

俺たちの親父は世界に名を轟かせる程の大企業のトップだが、同時に大学時代の同期でもある。

親父達の世代をまさに黄金時代とは誰が言ったが…。

あながち嘘ではないのだが、これ又、バカみたいな騒動も多いに起こし名を轟かせていた事も事実だ。

そう、皆、大学時代に涼司さんに出会い、一目惚れをして(?)涼司さんを争奪すべく何時も低次元で醜い争いを行っていたとか…。

母親にその時代の事を聞いて、余りのアホらしさに言葉が詰まった。

そう。

俺たちも、有り難くも『六家ジュニア』と呼ばれているが…、これはまだ、マトモだと非常に思う。

人格的にも常識を持ち合わせているし、何よりも涼司さんの事をそこまで盲愛していない。

俺たちの誕生について母親から聞いた時、余りの悲惨さに涙した。

誰が先に言ったのか、大学時代、卒業後、直ぐに結婚して跡継ぎが出来、育ったら、早々に引退すると。

その理由が、涼司さんが何時か帰郷する事が解っていた事なので、引退後、涼司さんの故郷で余生を過ごす為とか。

そんなバカらしいプランは多分、俺の親父が発案者と思うが、皆、直ぐさま反応し吾よ吾よと言い放ち、そして即座に実行した。

皆さん、婚約者がいたが、本当に親父達の婚約者は悲惨だったとしか言い様が無い…。

まだ学生であった母は、大学を中退し強引に結婚を勧められて、産み月を計算させられ妊娠させられたとか。

絶対に最初は男子、と言う条件を突き出し、新婚早々子作りに励んだと言う事だ。

そして生まれたのが俺たち、『六家ジュニア』

殆ど、同時期に生まれたので、誕生日も余り日が変わらないので、子供の頃は誕生日は皆で集まり盛大に行われた。

それも涼司さんが全て仕切っての誕生日だった…。

俺たちの親父達は、跡取りと言う目的を果たした途端、俺たちに一切関心がなくなり仕事に明け暮れる日々を送っていた。

そんな俺たちの境遇をいつも心配してくれたのが、何を隠そう涼司さん、その人であった。

自分が原因で俺たちが生まれた事を哀れと思ったのか、まあ、元々、かなりの人格者だったので、俺たちを分け隔てる事無く可愛がってくれた。

子供頃の思い出は、全て涼司さんによって作られた。

俺たちの行事毎にあわせ休みを取り、俺たちの為に時間を注いでくれた。

第二の父親とも言える彼に、俺たちは頭が上がらないのも真実だが…。

しかしねえ…。

今度は誰が発案者だっけ…。

涼司さんの愛する女性が大学時代に亡くなって、結婚する意思を示さないと言うのを聞きつけた親父達は、事もあろうか、
今度は自分たちの娘を涼司さんと結婚させると言い放った。

子供の頃から涼司さん好みに育てたらきっと、結婚に踏み切るだろうと。

多分、これは親父では無かったと思うのだが…、その結果、二年後に生まれたのが朱美達だ。

朱美達も影で、『六家ガールズ』と言われてたな…。

そしてこれまた、涼司さんは朱美達の境遇を哀れに思い、心から慈しみ愛情を注いだが。

皆、涼司さんに惚れ込んで、絶対に結婚すると子供の頃から宣言していた。

頼もしく育ったものだが…、奇しくも涼司さんは故郷に戻り俺の叔母と結婚した。

そして7年前に亡くなり、忍が俺たちの義弟となったのだが、今度はこの忍の事で、表立って争奪戦が繰り広げられている。

その争奪戦を繰り広げているのが、事もあろうか俺の家族である、妹の朱美と母である愛由美、そして祖母である弥生だ。

皆、涼司さんの人柄に惚れ込んでいたので、その息子である忍を目に入れても痛く無い程可愛がっている。

まあ、忍の姿も性格も涼司さんにかなり似通っているので、それもあるのだが…。

事故の事も関連して、その愛情の注ぎっぷりは見ていて異常な程だ。


そしてこの忍の事で、影でこれまた戦争が繰り広げられているのだが、これは余り表立って言える事柄ではないので控えておこう。

話すと今度は俺の身が危うい。

親父達がどうしてそこまで涼司さんを盲愛するのか、俺たちには到底理解できないのだが、理解出来なくて本当に良かったと心からそう思っている。

それが俺たちがマトモだと言う事を立証している事柄だと自負しているので…。

だが、しかし。

輝と朱美の結婚が無事行われる事を心から祈るが、その前に朱美の心を輝は本当に掴む事が出来るのであろうか…?

血の雨が降らない事を俺は心の底から願うばかりだ。


ああ、我が親友の将来に幸あらん事を…。







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