Act.6 正しい復讐の進め方 「さて、この復讐。 どうするべきかしら…? ふふふ、華麗かつ、残酷を漂わせながらも跡形はなく、綺麗さっぱりにやつを社会的に抹殺するには。」 帰宅して2時間、びっちりと浩貴にくどくどと小言を聞かされた朱美は、反論する事無くじっと耐えて、 浩貴の怒りを受け止めていた。 忍に対しては果てしなく愛情を注げると言うのに、こと自分の家族に関しては一切甘い感情は持ち合わせてないと言う浩貴の言葉は、 どこまでも容赦がなかった。 それがまた誤った見解であればこちらも対抗するが、一言一言がまるで脳髄まで諭す程の的確な言葉のオンパレードには、 流石の朱美も浩貴の言葉を素直に聞くしか出来なかった、が…。 その2時間の間に、朱美は浩貴の前では傷心しきってます、という態度を全身に表しながらも心の中では、 確実に輝を社会的に抹殺するべく復讐劇に心を馳せていた。 浩貴からやっと解放された朱美は身体に残る輝の感触を消したくて、即、バスルームに向った。 鏡に映る自分の身体に所々に所有の後がくっきりと残っている事に気付いた朱美は、羞恥よりも遥かに勝る怒りが体中に駆け巡っていた。 強く握りしめる手には、爪が深く食い込んで血が滲んでいる。 震える体をどうにか静めるにしても、怒りが火山の如く噴火して止まる兆候がまるで無く…。 どうにか冷水を浴びて気持ちを落ち着かせても、頭に過るのは輝との濃密な行為であった。 (こんな所迄、跡つけて、何様のつもりなのよ! 人の体をここまで弄んで、絶対に許せない…。 私は娼婦では無いのよ。 もう、悔しい〜!!!!!) 念入りに身体の隅々まで洗い流しバスルームから出た後、清めの為と思い台所に行っては粗塩を探し出し、全身に振りかける始末。 「ああ、まだあの男の感触が残っている〜」と自室の中で発狂していたが、流石にこれ以上吠えまくると散々啼かされた所為で 枯れている声がもっと酷くなる、と、朱美はこれまた輝との行為を思いだし、怒りを再発させる。 まるでメビウスの輪の如く怒りを鎮める出口は見つからないな、と頭の隅に過った時、扉をノックする音が聞こえた。 「こんな時間に誰かしら?」とドアを開けると、そこには最愛の義弟である忍が立っていた。 一瞬にして全ての怒りが浄化され、清々しい迄の微笑みが自然と沸き上がる。 「まああ、しーちゃん。 どうしたの?」 朱美の上機嫌な笑みに、くすりと笑い手に持っているモノを見せる。 「多分、小腹を空かせていると思ってホットケーキを焼いてきた。 後、アールグレイを濃いめに入れてきたよ。 食べるだろう?」 忍の気遣いに朱美の心は既に天国まで昇っていた。 ほろりと涙を浮かべ微笑み返す。 「しーちゃんのホットケーキ大好きなのよ。 紅茶の入れ具合も最高だし…。 今日一日落ち込んでいた気分が一気に浮上したわ。 有り難う〜!!!」 「もう、大げさだな姉貴は。 中に入って紅茶を入れるから、ソファに座って。」 忍の洗練された動きをぽーと見つめながら、「ああ、私はなんて果報者なの」と、つい先程迄、復讐の鬼と化した自分をすっかり忘れていた。 だが、そんな朱美の幸せな時間も忍の何気ない一言が無惨にも奪っていった。 「輝さんと婚約したって? さっき、輝さんから電話を貰ってビックリしたよ。 おめでとう、姉貴」 死刑執行を言い渡された囚人と成り果てた朱美の表情はなく、既に体中の血の気が引いていた。 がたがたとカップを持つ手には震えが走り、上手く口元に運ぶ事が出来ない。 忍の言葉にかなり動転している様子に、「そんなに動揺する事ではないのでは?」と苦笑を漏らした。 あくまでも照れと思い動揺してると勘違いしている忍に、朱美は全身全霊を込めて否定するが、それがまた朱美の恥じらいと思い、 忍は朱美の見せる初々しさに優しく微笑んだ。 「あの微笑みは完全に勘違いしてる…」と朱美は心の中で絶望した。 (これは早めに輝さんとの一方的な婚約を破断しないと本当に修復出来なくなる。 しーちゃんの心にインプットされた情報を早く消去しないと。 絶対に復讐してやる! でも復讐するにしても、輝さんに関する個人情報が余りにも欠落している。 感情は読めないし、世間での彼の情報はまるで教科書の様だし…。 お兄様に伺うにしても、絶対に贔屓が入った情報しか取れないし。 う〜ん。 これは、止む得ないわね。 付き合っている振りをして情報を引き出して…! そうよ、逆に弄んでやる! その手があったわ。 古典的な方法だけど、だけど、だからこそ絶大なる効果がある…! 思いっきり惚れさせてゴミの様に捨てたらいいのよ。 それも修復不可能な程の痛みを与えたら…。 最高の復讐になるわ。 ふふふふふ、高槻輝! しーちゃんを奪おうとする悪魔の所業、天に代わって成敗してやるんだから!) こうして朱美の華麗なる復讐劇は、忍の勘違いの発言により華々しく幕を上げたのだが、 正しく行われたどうかは定かではなかった…。 |