Act.14  六家の集い その7


「あ、輝、お前、とんだ災難だったな…」

久々に一光の「鳳凰の間」で「六家の集い」を行っている「六家ジュニア」達は今回の輝の婚約発表で大いに盛り上がっていたのだが、
輝が肋骨固定を行っての集いの参加に、皆、微妙な視線を注いでいた。
理由を聞く豪達に輝はしかめっ面で最初は返事を濁すが、興味津々の視線に負けて、重い口を開いた。

ぼそりと話す内容に皆、その場にて爆笑した。

「し、しかし、朱美ちゃんも相変わらずだな。
本当に男前な性格だよ。」

くつくつと笑いながら話す孝治に輝が鋭い視線を注ぐ。
その視線を受けながら「おお怖…」と軽く受け流す孝治に豪が苦笑を漏らす。

「お前、また朱美に何か言ったな。
何、地雷を踏んだ?」

流石に兄であり3魔女の犠牲者である豪の発言である。
なかなか的を得た言葉に輝が軽く目を伏せる。

「軽い嫉妬が招いた愚かな言葉と言っておこう…」

その言葉にピンときた豪がくつくつと笑い出す。

「涼司さんの事で朱美の逆鱗に触れたか。
お前、朱美達の「六家の集い」の事を小馬鹿にしていた事を伝えたんだな。
本当に、お前は痛い目の会わないと毒舌が過ぎる事を解らない様だな?」

豪の言葉に毎回、侑一達におもちゃにされているお前には言われたく無い、と出そうな言葉をぐっと押さえ込む。
言おうと途端、侑一の冷たい視線が輝を射抜き背中に冷や汗がたらりと伝う。

(や、ヤバい…。
侑一がいたのを忘れる所だった。
あいつは自分が豪をおもちゃにする事は許しても、俺たちが豪をからかう事に容赦がないからな。
本当にあいつも変な性格だよ、全く)

ふうう、と深いため息をつく輝に侑一が深い笑みを浮かべる。

「でも、本当に良かったね。
長い春に終止符を打つ事が出来て」

克彦の意外な言葉に一瞬、輝が目を見開く。

「ど、どうして、それを?」と呻く様に言う輝に克彦がにっこりと微笑みながらこう言った。

「だって子供の頃から輝が朱美ちゃんに示す態度って、小学生の男子がする典型的な行動じゃないか」と言う克彦に、輝の肩ががっくりと下がる。

うんうん、と頷く侑一、孝治、雅弘に輝は自分の恋情がどうして豪には解らなかったのか?
そしてそんなに分かりやすい自分の朱美に対する想いに深く項垂れていた。

(あの、か、克彦にでもバレているのに、どうして豪には解らなかった…?
人の心の機微に聡いはずだろう、豪のやつ)

と豪に視線を落とすと、意外な克彦達の態度に面食らっている様子だ。

「そ、そうだったのか…」と言う豪の顔が一瞬、曇っている様を見逃さない侑一があのゆったりとした独自の声音で豪に話しかける。

「豪は忍君の事とか、美樹さんとの事でそこまで考える余裕が無かったんだよ。
7年前からずっと忍君の事を第一に考えている豪に、輝の恋情迄考える余裕なんて無いよ。」

巧みにフォローをしていながらも、何処か豪の事をからかっている風に感じているのは俺だけだろうか?と輝は侑一の言葉に頭を傾げた。

そんな様を孝治がまたもやくつくつと笑い出す。

「お前の考えが当たっているよ、輝」と輝の側にきて囁く様に言った。

「しかし、朱美ちゃんもよく輝との婚約に首を縦に振ったな…」

普段、余り言葉を発しない雅弘がぼそり、と呟いた。

「それはどういう言葉だ、雅弘?」

一気に不機嫌な様を醸し出す輝に雅弘が表情を変えず淡々と言葉を続ける。

「お前、百合子達の「六家の集い」がどんな意味合いが含められているか、本当に解っているのか?」

「どういう意味だ?」

雅弘の言葉に感づいた侑一と孝治が一気に微苦笑を漏らす。

「あいつらの「六家の集い」、いや「六家ガールズ」の意味はお前、理解しているだろう?」

「ああ、嫌な程な」

「では、お前との婚約を行った朱美ちゃんはどんな立場になるかは、解るだろう?輝」

雅弘の言葉にやっと何を伝えたいのか意味を知った輝が一瞬、表情が強張る。

「やっと解ったか、輝」

「…そういう事か…」

「お前にとっては朱美ちゃんとの婚約は喜ばしいことだが、本当に朱美ちゃんがお前との婚約を心から望んでなくての婚約ならば。」

「朱美は「六家ガーズル」の完全離脱。
もう、他の5家との繋がりが無くなるという事だ…」

「だ、だが、彼奴らは俺たちと同じく幼なじみの関係ではないのか?」

「そんな甘い関係だと思う訳?輝は」

「侑一?」

「涼司さんと言う一人の男性を巡ってのライバルである真季子達にとって、一人でもライバルがいなくなる事は喜ばしい事に決まっているだろう?

ましてや朱美ちゃんは忍君の義理の姉にもなる立場。
7年前の事故で涼司さんが亡くなり、今や忍君だけが涼司さんの血を受け継ぐただ一人の息子を朱美ちゃんは事故の事を引き合いにして
真季子達に一切会わせない様に「六家の掟」を作った。

その本人が輝との婚約。

これを期に真季子達が朱美ちゃんに脱会を迫り、忍君との関係に迄関与する事を許すと思う訳?
喩え義理の姉の立場であろうとも、もう「六家ガーズル」の一員でもない朱美ちゃんが強く言えるとは到底思えない。

それでも、輝…。

朱美ちゃんは心から望んで輝と結婚するんだろう?」

侑一の言葉に、一瞬、朱美の哀しい顔が脳裏に浮かんだ。
最初、朱美を抱いた時子供の様にむせび泣き自分に縋ったあの姿が…。

「俺は…」

「輝」

「そうなんだろう?輝…」

侑一の言葉が深く輝の心に浸透する…。

朱美の「六家ガールズ」の脱会。

朱美が忍との関係を一切経たれる事が朱美にとって、どんな意味を含んでいるか察する輝の心は、重く沈んで行くのであった…。






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