Act.10 六家の集い その3 「ねえ、今回の集い…。 ビックな情報を掴んでいるの。 聞きたいと思わない?百合子。」 朱美との会話を終えた志穂は直ぐさま、幼なじみであり「六家ガールズ」の一人である、本間百合子に連絡した。 志穂の言葉に興味を示した百合子が早く聞きたいと急かす。 そんな百合子の様子をほくそ笑みながら、志穂はゆったりとした口調で話した。 「実は、朱美が我が兄と婚約したって事よ。」 志穂の言葉を聞いた瞬間、百合子の嬌声が携帯越しに木霊した。 「ちょ、ちょっと声が大きいわよ、百合子。」 自分の言葉がこれほど効果を示した事に志穂は何処迄も機嫌が良かった。 逆に志穂の言葉を聞いた百合子は顔面蒼白だ。 携帯を握る指先迄血の気を失った様は何処迄も痛ましかった。 「…そ、それ本当なの?志穂。」 どうにか言葉を発する事が出来た百合子に志穂は携帯越しに大きく頷いた。 「勿論よ、百合子。 私が今迄、嘘をついた試しがあって? いつも貴方達には真実を伝えてきたはずよ。 そうでしょう?百合子。」 暫し考えにふけ過去を巡らしていた百合子の脳裏にそれが正しいと言う答えが表示される。 渋々ながらも頷き返事をする百合子を志穂は心の中で笑った。 そして自分が返答して欲しいと言う言葉が返ってきた。 「…それでは志穂も忍君の義理の姉と言う立場になるのね。」 百合子の声に硬さが強調される。 余程自分の言葉がショックであったのか?と思うと気の毒と思う反面、それ以上に自分に対する嫉妬の感情を伺える事に 志穂は優越感を味わっていた。 「そうなのよ〜。 ごめんね、百合子。 貴方達の立場を考えると申し訳ないと思う気持ちがいっぱいで、いっぱいで。 でもね、百合子。 私は朱美とは違うから。 朱美は忍君を私達に引き合わせようとはしないけど、私はそうはしない。 確かに彼が事故の事を思いだす事を恐れる朱美の気持ちは痛い程、解る。 私だって事故後の忍君の様子を聞いた途端、心が凍り付くかと思った。 今の彼の様子を知って、何時、記憶が戻るかと思うといても立ってもいられない。 忍君は涼司さんの血を受け継ぐ、この世でただ一人の人。 私達にとって、何よりも大切な存在だわ。 そうでしょう、百合子?」 志穂の神妙な言葉に、百合子は最初はショックを受けていたがだんだんと志穂の言葉に同調を示す様になった。 「確かに志穂の言葉は正しいわ。 忍君は私達にとってかけがえのない存在だわ。 涼司さん亡き後、あの方の面影を宿すのは彼しかいないもの。 今の忍君は涼司さんそっくりだと真季子から聞いた途端、私涙が出たの。 ああ、あの方は今も私達の側に存在する。 忍君を通して、あの方は私達を見守って下さっているのよ。」 涙声で言葉を紡ぐ百合子に志穂は頷いた。 「いくら「六家ガールズ」の掟の中に、「忍君が過去を乗り越える迄は会う事は禁止」だと言う事を提示していても、それは違うのではないの? 私、朱美がその事と掟として出した時、どれだけ心の中で憤慨したか解る? じゃあ、貴女はどうなの? 私達にそんな言葉で縛り付けながら、自分だけのうのうと義理の姉と言う立場を利用して忍君を我がモノの様に振る舞って! 自分はその掟に従わないの? 義姉だから掟は許される訳? 自分が提案者なのに、提案に従わないのって余りにも不条理に思うのは私だけだとは思わない…! 私ね、百合子。 いくら朱美が大切な幼なじみだと言ってもこれだけは許さない! だから私、絶対に兄との婚約を成立させたいのよ! 朱美と同じ立場に立って、忍君に対しての朱美の今迄の所業をこれから先封じ込めたいの! ねえ、百合子…。 私のこの遣る瀬ない気持ち、解ってくれるでしょう?」 志穂の真摯な言葉に百合子は賛同した。 百合子の気持ちが自分に傾いたと感じた志穂は、柔らかく言葉を続けた。 「流石、百合子ね。 百合子なら私の気持ちを理解してくれると思ったから、一番最初に話したの。 明日、集いが始まる迄に私の気持ちをみんなに伝えようと思うの。 勿論、朱美には話さないわよ。 当然でしょう? 朱美は私達にとって大切な幼なじみ以上に、裏切り者なんだから。 自分が今迄してきた行いを身を以て知るべきだわ。」 ぞっとする程冷たい声に、百合子は携帯越しに身震いした。 だがそれも一瞬で、志穂の言葉に同調した百合子の声も冷たい響きを含んでいた。 「確かに志穂の言う通りだわ。 で、どうするつもりなの、志穂?」 「ふふふ、まあ見ていて。 朱美を追いつめる要因を私、掴んでいるから。」 志穂の言葉にそれは何?と問い詰めるが、志穂から「今はまだ、ナイショ。」と伝え、百合子の言葉をかわす。 不満げな百合子の口調に志穂は微笑みながら、こう答えた。 「復讐はね、百合子。 効果的かつ、美しく行わないといけないの。 だから、私、それが最大限に達した時、貴女達に話すわ。 …ふふふ、勿論ではないの。 だって、貴女方は私にとって何よりも大切な仲間なんだもの…」 うっとりと言葉を紡ぐ志穂の瞳には、見る者全てを凍り着かせる程、冷たい光で輝いていた。 |