閑話 「六家の集い」 「おい…。 あれは何時迄続くんだ?」 久々に「一光」の「鳳凰の間」で「六家の集い」を行っている六家ジュニア達。 今回の主催者は雅弘だった。 何時も寡黙で無口で触れるとキレそうな空気を漂わせるのが常だが、この「六家の集い」の時だけは彼は別人だった。 ミラーボールが散々と輝くお立ち台に上がり、マイクを片手にひたすら演歌を歌っていた。 そう、まさに昭和を代表する歌謡曲…。 瞳を輝かせ、悦に入った表情を見ながら侑一達は思った。 「あいつは本当に変だな…」 ぽそりと囁く侑一に輝は心の中で叫んだ。 (お前が雅弘の事を言う権利があるのか、このド変態野郎が〜!!!! 雅弘はまだ、可愛いじゃないか! 演歌を心から愛してるんだから…。 お前の様に人の弱みに付け込んで、人畜無害な笑顔を浮かべながら行った数々のいたずらを考えてみろ! 何時もその尻拭いをさせられた俺たちの苦労なんか知らずに、いや、あいつは知ってわざとやったに違いない。 あり得る…。 侑一なら、絶対にあり得る。 ああああ、何故、俺はあいつの幼なじみなんだ? 大人になって更にパワーアップしたあいつの所業の事を思い浮かべると、俺は…) 汗をしたらせ壮大に溜息を吐く輝を見て豪が微笑む。 「輝…。 お前、あんまり神経質に考えない方がいいぞ」 能天気な豪の言葉に輝の柳眉がぴくり、と跳ね上がる。 「お、おい、豪…。 お前、何故そう呑気に構える事が出来る。 お前も侑一のおもちゃにされてるだろう?」 輝の言葉に豪が苦笑する。 「ま、まあ、俺の事もからかう事が好きだよな、侑一は。 あれも一種の愛情表現だと考えると、可愛いのではないか? あはははは。」 渇いた笑いを浮かべる豪に輝が、「お前は馬鹿か!」と冷ややかに言い放つ。 「大体、お前が甘やかすからつけあがるんだ、あいつは。 いい顔をするのも大概にしろよ、豪。 全く…、子供の頃はまだ可愛げがあったが、何時からかは知らないが、知恵がついた途端、いたずらを思いついたら直ぐに実行して その責任を俺たちになすり付けて。 天使の様に可愛い侑一君を誑かしては駄目よ、と母親に言われた時には、お前達の目は節穴かと心の中で 俺は母親達を罵倒したぞ。 本当にあいつは天使の顔を持つ悪魔だ! いや、大魔王だ…。 大体、何故、俺があいつの幼なじみなんだ…? ああ、俺の人生って。」 と言う輝の目の前に豪がそっと、ハンマーを手渡す。 真摯に訴える様に見つめる豪に輝が目を見開く。 「…お前、これですっきりさせろ」 「…豪」 「モグラ達がお前を待っている」 「…」 はっと意気込みくるりと背を向け輝は、一目散にある場所に向い、ゲームを始めた。 モグラと格闘する輝を見つめながら豪はぽそりと呟いた。 「どうして一つも当たらないんだ… あれも一種の才能だよな。 綺麗に外している。」 ひたすらぴこぴこと音を立てながら一つもヒットしない、「○グラ叩きゲーム」をこれでもか〜と言う程必死になりながら輝が叩いている。 時折「侑一のバカやろー」とぶつぶつ呟く姿に、何故か哀愁を感じる豪…。 そんなやり取りを豪と輝が行っている間に、熱唱を終えた雅弘が席に戻る。 その際、克彦がこれでもか〜と言う程の拍手で出迎えた。 目に涙を潤ませながら…。 「雅弘…。 また上手くなったね。 私は雅弘の歌を聴いて感動したよ」 「そうか?」 心無しか微笑んでいる雅弘に克彦が満面の笑顔を浮かべている。 「ああ、今度私のオペラとのコラボをしよう。 きっと今迄に無い世界を開拓する事が出来る」 「それは素晴らしい提案だな」と何時に無い程乗り気な雅弘に甚く感動する克彦。 「私は雅弘と幼なじみで本当に良かった…」としみじみ言う克彦に、雅弘が「俺も…」と頷く。 「豪にピアノで伴奏してもらおう」と言う提案が2人の間で行われている事を豪は知らない…。 「おい、侑一…。 これ、なかなか確変が来ないぞ。 お前、どういう設定にした。」 「別に、何もしていないよ。」 「…じゃあ何故、お前の台は連チャンが来ているんだ。 また確変が来ている!」 「あれ、本当だね。 あははは、また、7だ♪」 「…侑一」 「僕にフェロモン漂わせても何にも効果はないよ。 当然、パチンコ台にも…」 「台代われ、侑一」 「いいけど、でも代わってもね…」 「何が言いたい」 「別に。 ただ、孝治が下手な事を実証するだけだから、やめた方がいいんじゃないのかな?」 穏やかに微笑みながら、あの独自の間の延びた声が孝治に放たれる。 「ほう? 俺が下手だと言いたいんだな?」 にやりと笑う孝治に侑一がにっこりと微笑みながら一言言う。 「事実でしょ」 「…侑一」 「あれ? 確変が来たよ。 凄いよ、この台。 孝治と代わった途端、何、この連チャンのオンパレード。 これで7連チャン。 うわああ、僕ってギャンブルの才能もあったんだ♪」 「…」 「孝治…。 本当に来ないね、台を代わったのに」 項垂れる孝治を横目に微笑む侑一のジャケットのポケットの中に、確率操作のリモコンがある事を孝治は知らない…。 「これが「六家の集い」の実態だったのね…」と遠い目をしながら呟く春菜を見る様になるのは、然程遠く無い未来の出来事である。 |