Act.6 まさかの交際宣言





「坂下君、今日は…、どうしてこんな人と帰宅しているの?」

(こんな人ですか、私は…。

確かに顔は十人並みで、体型はすこしぽっちゃり。

あの、パパとママの娘とは到底言いがたいわよ。

ママの写真を見たとき、確かに少しは似てると思ったけど、私はあんなに儚げで可憐ではない…。)

むっとしているのが解ったのか、忍は少し苦笑して彼女達に言葉をかけた。

「偶然帰り道が一緒だと解ったから、道案内していたんだ。

彼女はこの学園に転校して、まだ2週間しか経っていない。

クラスメイトとして当然な行いとは思わないかい?」

穏やかに微笑み言葉を紡ぐ忍に、皆、頬をぽおお、と頬を染めて見つめている。

「流石だ、巨大猫かぶり、お見事です…」、と春菜は心の中で拍手を贈った。

「だから今日、僕はゆっくり彼女にこ近辺を案内しながら帰ろうと思う。」

忍の言葉に一気に現実に戻された彼女達は実に不満げだ。

(そりゃあそうでしょう。

自分の好きな男が、別の女と帰宅するのだから。)

それも理由が理由だけに、何も言えないが、だが感情とは別物だ。

一気に捲し立てる。

「でも、それだったら別の人が案内したらいいじゃない?

どうして坂下君が」

(それも最もだわ。

もう、何が気になるんだろうねえ…)

心の中で深いため息を零すと、忍が更にこう言った。

「実は彼女は僕の兄の親友の「親戚」なんだ。

だから無下には出来ないんだよ」

忍の衝撃的な言葉に、春菜は一瞬、言葉を失った。

(こ、こいつ、今、なんて言った?)

忍の言葉に春菜は今迄になく動揺した。

そんな春菜の態度を見て、忍は目を細めて笑った。

瞳の奥にはしたり、と窺える。

(し、知っていたんだ…。

私が更科侑一の娘である事を!

ど、どうして????)

「だからごめんね。」

「…では仕方ないわね。

でも、毎回ではないんでしょう?」

「さああ、それはどうかな?

実は僕、彼女に先程、交際を申し込まれたし…」

更なる衝撃に既に言葉すらない。

「…さ、坂下君?」

忍の言葉に親衛隊の女子達が一斉にざわめく。

「ど、どういう意味ですか?

それは!」

「僕としては兄の立場も考えて、申し込みを受けようと思うんだ。

まあ、期間限定でいいと彼女も言うし、僕も異論が無いからね。

だから僕たちは今日から付き合い始めた。」

「「はああああ!!!!」」

忍のとんでもない言葉に春菜も、親衛隊の女子達も耳を疑った。

「ど、どうしてそんな嘘を…!」

かろうじて言えた言葉を忍が軽く封じた。

「嘘ではないだろう?

春菜さん。」

(こいつ、心の底からこの状況を楽しんでいる!

悪魔だ、この男わ〜!!!!

どうしてこうなるの?

もしかして私が彼の心を垣間見たから?

好奇心が走り、知りたいと思ったから?

あり得ない!

いや、あり得ない…。

ああ、神様。

どうしてこうも、私は人の心に敏感なんでしょう…?

今日程、己の性格を恨んだ事は無い。)

がっくりと項垂れる私に、坂下忍はそっと肩を抱き耳元で囁いた。

「俺の心を覗こうとするな…」

その言葉を聞いた春菜は全身に冷や汗がどっと出て、どうにか自分を保たせるのに精一杯だった。

(知ってたんだ。

こいつ、知ってたんだ、私の視線を…

いや、敵に回したく無い!

だけどそれ以上に関わりたく無い〜!!!

ああ、好奇心とは己の身を滅ぼすとはよく言われるけど…。

いやあああああ!!)

心の中で発狂する春菜の手を引きながら、2人は学園を後にするのであった…。





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