Act.5 巨大な猫に覆われる





一つ、質問する。

貴方は、犬派?それとも猫派?

どっちと言われたら私はすかさず、こう答えるであろう…。

「犬派!」

どうしてかって?

だって解りやすいもの…。

その理解に苦しむ猫派代表が今、私と視線を交わしている。

そう、彼は先程の感情をいとも簡単に打ち消し、完璧なる仮面を付けて私に微笑んでいる。

その微笑みを見て私は心の中で毒づいた。

(こいつ、疑っている…?)

ああ、どうして私はこうも勘がいいのだろうか…?

額面通り見ていれば凄く楽なのにねえ…。



子供の頃から祖父母に、時に厳しく、そして優しく愛情豊かに育った所為か、人様の心の機微にどうも聡いらしい。

自慢ではないけど、これの所為で見なければいいモノ迄見えて、人間関係に何度苦労したか…。

そして恋愛方面でも。

いいな〜と思い告白して、両思いになって恋愛に発展して最初は上手くいっていても、ああ、だんだんとその人柄が解って来ると、
どうもしっくりこなくなって自然消滅。

別にカッコイイ貴方を求めてる訳ではないのに、どうして自分を過大評価させて見せつけようとするの?

そしてそれ以上に何故、私という人間を自分の思い描くカテゴリーに填めようとするんだろう?

貴方だってそれを求められたら苦しいでしょう?

だったら自分がされて嫌な事をどうして相手に求めようとするの?

その根源を解ると、自分の熱が一気に冷める。

そして毎回こう思う。

何故、ありのままの自分を受け入れないの?

何故、ありのままの自分を見せようとしないの?

それを見せて駄目だったら、最初からそれは本当ではなかった。

それが怖いから?

別に見せていいじゃない。

楽なのに…。



ぼおお、と考えていると坂下忍に、名前を呼ばれていた。

自分の名前を知っていた事に驚いた私は、一気に現実へと引き戻されていた。

微妙な感情が心の中に燻らせながら…。

「坂下君、私の名前知っていたの?」

私の問いに意外だと言う表情を見せ、そして淡く微笑んだ。

この微笑みを見ながら、どうすれば自分が好かれるのかを完璧に計算してる、と更に私は心の中で更に毒づいた。

「クラスメイトを知らない生徒が存在するかな?」

返答の言葉の意味を裏返したら「俺はそんなにバカでは無いぞ。」としか取れない。

私の考えが歪んでいるのだろうか…?

いや、坂下忍が私にそうさせる。

「そうよね。

私、うっかりしていたわ。」、と無難な答えを返す。

じゃあ、と踵を返すと、坂下忍が何を考えたのか、急に私に声かけた。

「一緒に帰らない?」

暫し、何を言われたか解らなくなり理解に苦しんだ…。



そして自然な流れの様に今、一緒に帰宅している。

放課後、帰宅する学生の中で、私達は注目の的だった。

今、坂下忍はフリーである。

この状況を見られると今度は…。

まさかね、ねえ?

そんな展開、天地がひっくり返っててもならないわよ。

これは偶然の産物。

知りたいと思った「坂下忍」を知る事が出来るじゃない。

真季子さんに大きな収穫を持って帰れるじゃない。

だけど…。

気持ちは本当に複雑。

「はああ」と無意識に溜息をつくと、隣で坂下忍が苦笑を漏らした。

そして囁く様に、「君って変わっているね」と私に言った。

一瞬、考えそして、にっこりと「有り難う」と返答した。

どうか何も事が起こらない様に!、と心の中で祈りを捧げていても、神様は裏切るのが上手。

私達は校門の前で、坂下忍親衛隊に囲まれたのだった…。



web拍手 by FC2





inserted by FC2 system