Act.25  恋愛狂想曲 その11



到着した時の皆さんの反応をどう表現すれば良いのだろうか?
克彦さんに対しては余り反応が無かったけど、パパに関しては…。
輝さんの表情が引き攣っているのに、私は確信した。

輝さんはパパが本当に苦手なんだと…。

入った途端、ちらりと輝さんを見るパパの表情。

あの目を見た途端、私は軽い目眩を起こしそうになった。

(あ、あの目、パパが克彦さんの音程の狂ったオペラの事を語った時の目にそっくり…。
パパがいたずらを楽しんで瞳を輝した、あの表情と…!
い、イヤよ私。
不穏な雰囲気なんて絶対にイヤ…!
も、もうなんでパパはああも、人の弱みにつけ込むのが好きなの!)

はあああ、と壮大な溜息を吐く私に、側にいた孝治さんがくつくつを笑う。

「春菜は本当に聡いな。」

そういう孝治さんの瞳は増々、色気を増して…。

側にいる私は孝治さんをドキドキしている事を悟られない様に必死になって、表情を保とうとしていたら、パパが輝さんに言葉をかけた。

「やあ、輝。
来てくれて本当に有り難う…」

あの、間の延びたゆったりとしたパパの口調が何時にも増して、ゆったりと感じる。

パパの言葉に顔を壮大に顰める輝さん。

「侑一。余り輝をからかうのはよせよ。」

苦笑を漏らしながらやんわりと制する豪さんに、パパがふわりと微笑む。

「もう、豪ったら、僕が輝をからかっていると思う?
大切な幼なじみをからかうなんて、僕の辞書には存在しないんだけど。」

「…じゃあ、俺を虐めるのが好きなのか」

「輝ったら。
どうしてそう、いつも僕に突っかかる?」

にこりと微笑むパパの目が増々いたずらの光を強めている。

「お前が何時も俺の神経を逆なでするんだろうが!
今迄の行いを思い出せ!」

いきりたつ輝さんに、パパがふと微笑む。

「先程の空港も件も?」

パパの言葉に輝さんが表情を硬くする。

「…お、お前…!」

「その辺にしてくれないか、侑一」

豪さんがくつくつを笑いながらパパに言葉をかける。

「もう良いだろう?
お前が輝の事を好きだと思う事を充分に解ったから。」

豪さんの言葉に輝さんが声を上がる。

「誰が俺の事を好きだって!
豪、お前!」

「ああ、やっぱり豪は僕の事をよく解っているね。
本当に僕は豪と義兄弟になりたいんだけど、ね」

と輝さんを見つめながら片目を器用に軽く瞑る仕草に、輝さんが鋭い視線をパパに注ぐ。

「お前ら、漫才はその辺にしておけよ。
春菜がどう、反応していいか戸惑っているじゃないか」

孝治さんの言葉に、パパが私に視線を落とす。

その途端、パパの目には涙が滲んでいた。

「…パパ?」

急に泣き出すパパに、不安になった私に近づき…。

そして強く抱きしめた。

「なんて綺麗なんだ、春菜!
僕は今、最高に感動している…!」

涙声で更に強く抱きしめるパパの表情を見て、私は解ってしまった。

パパがママを思い出し本当に泣いている事を…。

言葉に隠れたパパの思い。

「孝治…。
前の言葉は却下だから。
僕は春菜を絶対に放さない。
こんな綺麗で優しくて可愛い娘を孝治の毒牙にかかったら、汚れてしまうからね」

パパの言葉に、ぴくり、と孝治さんが反応する。

「…おい、侑一。」

「みんなにも言っておくね。
春菜はね。
僕にとって神が与えた天使なんだ。
だから誰も穢す事が許されない存在。
この言葉、解ってくれるよね…?」

「ぱ、パパ、何恥ずかしい事を!」

とんでもないパパの言葉に抱きしめられていた私は反論する。

「何が?
だって事実だよ、春菜。」

真剣な趣で語るパパの目を見て私は絶句した。

(目が据わっている…。
や、ヤバい、この目。
克彦さんに対して怒りを憶えたあの目と一緒。
真季子さんの事を大切に想うあの目を。
パパの愛情はとっても嬉しいんだけど…
だけど、だけど、迷惑な程重いんだけど!)

愛情深いのは嬉しいだけどその愛の表現がパパの場合はちょっと、思っていると豪さんが爆笑した。

「侑一…。
解ったから大概にしておけ」

「…」

「そうだよ。
幾ら孝治と言っても、まだ春菜ちゃんは学生だ。
女子高生に手を出す程、女性に困っていないから。」

克彦さんの論点の外れた言葉に雅弘さんがぽそり、と呟く。

「そこ違う…」

「侑一、人の恋路を邪魔するとどうなるか…、解っているだろう?」

「孝治?」

「侑一?
本当は菜穂ちゃんが俺の婚約者だった事をお前、忘れた訳ではないだろう?」

初めて知るママと孝治さんの関係に一瞬、目が見開く。

「…」

「俺たちの母親は本当に仲が良くてな。
自分たちの子供が産まれたら、結婚させようと思っていたらしい。
だから、菜穂ちゃんは俺よりも年が上だったが、母親が菜穂ちゃんの事を気に入って俺の婚約者にしようとした。
まあ、俺も菜穂ちゃんに一目惚れだったし好きだったから喜んだけどね。
それが誰かさんも同じく一目惚れして、俺から菜穂ちゃんを奪ったんだ。」

からかいを含めた口調の孝治さんの言葉に今迄にない反応を示すパパ。

涙がいつの間にか引き、蒼白な表情に変わってる。

狼狽えている表情をみて輝さんは喜んでいた…。

「た、孝治…」

「本当に見ていて呆れる程あざといやり方だったよな。
あれでは菜穂ちゃんも侑一に心を傾ける様になるだろう…」

にやりと笑う孝治さんに私は思った。

(案外、孝治さんの方がパパより上手だったりして…。
これはマトモに孝治さんの攻防を受けると私も…!
嫌々、私が好きなのはあくまでも坂下君だから。
巧みな話術とフェロモンで落ちる程、そう簡単な想いではないんだから!)

「だから、ねええ…。」

そう言って急にパパから私を奪い、私の肩を抱く。

「俺は今日の集いで宣言するよ。
春菜は高校を卒業と同時に俺の妻になる事を。
これは決定事項だ!」

孝治さんの爆弾宣言に私は表情を無くし、絶句した…。

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