Act.24  恋愛狂想曲 その10



「な、何これは…」

私がこの集いに関して感じた事だった。

今回の集いはパパによって行われるはずが既に皆、勝手に盛り上がっている。

豪さんは、グランドピアノの蓋を開け演奏を始めた。
余りの上手さに一瞬、私は聴き入っていた。
曲目はパガニーニの『ラ・カンパネッラ』である。

上手いな〜とほとほと感心していると、視界に輝さんがクレーンゲームをしているのが映された。

輝さんは、クレーンゲームをしているが一つも取れない事に目が血走り、周りが見えていない。

必死になっている事を見るとゲームが好きなんだ…、と思い見た目と全然中身が違う…、と変に感心していたが、どうもこれがパパによる事だという事を私は後で知る。

パパの輝さんに対する過激ないたずら(そう言っておこう…)が輝さんに冷静な判断能力を奪い、ああいう風にさせるらしい…。

パパは昔からいたずらの天才だった…。

パパが特に輝さんと豪さんを子供の頃から、まあ、他の幼なじみをからかう事が好きなのだが輝さんに関しては心から楽しんでいる事を
私は後で来たパパに感じる事になる。

(好きな女の子を虐める典型的なパターンなんだけど、何故に幼なじみなのよ…!全く…、パパはあの人達だから事が大きくならないけど、
他の人にそんな事をしたら、どうなるか知ってやっているのね…。

う〜ん、こう考えるとパパは本当に5家の人達が好きなんだとは解るけど、でもね…。

愛情表現が歪過ぎる。
かなり歪んだ愛情表現。

も、もしかしてママに対しての恋愛感情の現れもああだったら、ママは本当に偉大だわ。
私には到底無理だわ…)
とパパの性格と六家の人達の関わりを分析していると、目の前に珈琲が出された。
いつの間にか演奏を終えた豪さんが微笑みながら私に手渡してくれた。

「あ、有り難うございます」と伝え、珈琲を飲むとそれがとても美味しい事に私は感動した。

「と、とっても美味しいです…」と言葉を詰まらせながら言うと豪さんが「有り難う」と優しく微笑む。

本当に坂下君の義兄とは思えない雰囲気を持っている人だな…、と彼を見つめながらしみじみ感じた。

5家の人は…、パパもそうだけどトップになる為の教育を受けている所為か、元々そういう環境で育っている所為かは解らないけど、
後継者としての威厳と驕りがかなり顕著に現れている。

でも、坂下君のお義兄さんにはそれが感じられない…。

変な言い方をすると偉ぶった所が見えない。

「あの…、パパとは本当に幼なじみですよね…?」とついぽろりと出た言葉に豪さんがくつくつと笑い出す。

「君は侑一に本当に良く似ているね」と言う言葉に私はきょとんとしてしまった。

まさかそんな言葉が返るとは思わなかったので、どう応えればいいのか考え込んでしまう。

「そ、そうですか?」と何とか返答すると、豪さんは笑みを深くした。

「侑一はね。
育った環境の所為で、かなり観察力と洞察力が優れている。
そうならなければ、更科家での生活が耐えられなかったんだろうね…。
俺は子供の頃から色々、侑一にいたずらもされるし、おもちゃにもされた事があるけど、それは侑一の寂しさの現れだと思っている。
侑一はとても寂しがりやで、愛情表現が下手で、忍ととてもよく似ているから…。

だから俺は侑一が可愛い。
あ、変な表現だけど、侑一のいたずらをされてもそれが親愛の情だと解るから許す事が出来るんだ。
それだけ、俺たちに心を開いていると解っているからね」

豪さんの言葉を聞いた途端、この人はなんて優しいんだろう…、と改めて感じてしまった。

そしてその後、豪さんから聞くパパのいたずらの数々を聞いて本当に豪さんは出来た人物だ、とつくづく感心してしまった。

パパがちょっぴり羨ましくなったのはパパにはナイショ。

「あれ、久々に雅弘が占いをしているな」

と急に話しだす豪さんに私は雅弘さんに視線を送る。

テーブルの上でカードをシャッフルしている所をみるとタロット占いをしている。

「雅弘の占いはよく当たるんだ。
見てもらったらどうかな?」と言い、一緒に行く事を促した。

「雅弘、何占っているんだ?」と言う豪さんの言葉に、雅弘さんが鋭い視線で豪さんを見つめる。

「お前、座ってカードを一枚めくれ」とポソリと呟く声に豪さんが微笑む。

シャッフルし、一枚のカードをめくりそれを雅弘さんに差し出す。
差し出すカードを見つめ、雅弘さんの目が一瞬見開く。

雅弘さんの反応が珍しかったのか、豪さんが少し心配げに雅弘さんを見つめる。
「何が出たんだ…」と言う豪さんの言葉に、雅弘さんが少し思案して、こういった。

「お前、近いうちに運命の女に出会うぞ」と言う雅弘さんの言葉に、豪さんが苦笑を漏らす。

「あり得ない話だな、俺には婚約者の美樹がいるのに…」と微笑む豪さんに、雅弘さんが言う。

「それは「坂下豪」としての相手だろう…」

雅弘さんの言葉に豪さんの表情が一瞬、硬くなる。

(「坂下豪」としての相手ってどういう意味なの?)

雅弘さんの言葉が私の心に一瞬、波紋を与える。

それが何年かののちにどういう意味を含んでいたかを私はパパを介して知る様になる…。

「俺が言う女は、お前の全てを奪う女だ。
お前が本気になって愛し、心を捧げる「運命の女」…。
そしてその女との愛が実れば、お前は本当のお前に戻れる…。
だが「坂下豪」としての、お前が今迄築いたモノが全て無くなるリスクを伴うがな…」

静かに語る雅弘さんの言葉に豪さんがふと微笑む。

とても寂しそうに…。

「それは一生、あり得ない話だよ…」とそう囁く豪さんの表情を見つめ胸が詰まった。

「ふ〜ん、それは興味津々だな」

といつの間にか来ていた孝治さんと輝さんが同時に言った。

「豪に運命の女か…。
俺は是非に実って欲しいな」とどこがからかう様な声音に輝さんが非難の眼差しで孝治さんを見つめる。

「お前、本当に豪の事になると態度が違うよな」と、肩を竦めて言う孝治さんに、豪さんが苦笑を漏らす。

「おい、それ本当の事なんだな、雅弘…」と言う何時に無く真剣な輝さんに、雅弘さんが表情を変えず頷く。

「雅弘の占いは外れた事が無いからな…」と言う輝さんの声が硬い。

「余り真剣に考え込むな、輝」と言う豪さんの言葉に輝さんが突っかかる。

「それが本当ならお前は…」

「今、ここで話す言葉では無いだろう?」と諭す様に話す豪さんに輝さんがはっとした表情で私を見つめる。

「そうだな…」と落ち着きを取り戻しながら、後で詳しい詳細を教えてくれと雅弘さんに念を押す。

その輝さんの態度に孝治さんが苦笑を漏らしほとほと呆れ返っていた。

「本当に輝は豪の事になると人が変わるな…」

「それだけ、豪さんが大切な幼なじみなのでは?」と私がぽそりと呟くと、孝治さんが笑みを深くする。

「まあ、豪の場合は少し特殊だから」と言う孝治さんの声音が何時もより低い。

輝さんも孝治さんも、そして雅弘さん、豪さんを見ていると「六家ジュニア」達の繋がりの深さをしみじみ感じてしまう。

あの鋭い雰囲気を持った雅弘さんも豪さんに接する時、空気が柔んでいる。

少し緊迫した雰囲気の中で扉が開く。

パパと克彦さんが同時に到着した…。


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