Act.23 恋愛狂想曲 その9 「今頃、どうなっているかしら春菜ちゃん♪」 嬉しそうに話す真季子にうんざりとした表情で紀子が見つめる。 「もう、真季子も残酷だよね…」とぽそりと呟く紀子に真季子が笑みを深くする。 「あら、だって孝治さんもお兄様も、きっと顔を蒼白にさせてるかと思うと、自然に笑いがこみ上げて。」 「真季子」 「ねえ、紀子。 孝治さんは今でもなっちゃんの事を想っているんでしょう?」 「…」 「私ね。 なっちゃんには幸せになって欲しかった。 本当は孝治さんと結ばれるのが一番、幸せだったのではなかったのかなと思っている。 私ね。 お兄様の執着が、なっちゃんの命を縮めた事を知っていたの。 だから、私、実の兄でもお兄様の事は許せなかった。」 「真季子、それは!」 「2人が愛し合っていた、と言いたいんでしょう?紀子は。 でも、本当にそうだったの?」 「ナホちゃんは侑一さんの事を本当に愛していたと思う。 だから、春菜ちゃんが産まれたんでしょう…」 「春菜ちゃんの事を知って、私、本当に嬉しかった。 あの娘はなっちゃんに本当に良く似ている。 姿も、あの優しい性格も。 私達の血を引き継がなくて本当に良かったと心から思う位。」 「真季子」 「私ね。 なっちゃんから溢れる程の愛情を与えられたの。 お母様が涼司さんを愛している事を知っていたわ。 その恋情が私に対して憤りと嫉妬を含めた目で見つめていた事も知っていた。 両親から与えられない愛情を、私は涼司さんとなっちゃんから、沢山貰った。 ねえ、紀子…。 あの時、何故、死ねなかったのか、私、今でも後悔している。」 「真季子!」 「涼司さんが亡くなって、悲しくて悲しくて、本当に何故、息をしているのか不思議な位、自分の生に疑問を持った。 そんな中で私は、忍さんと春菜ちゃんの存在を知った。 忍さんを見たとき、涼司さんが蘇ったと思ったわ。 本当に良く似ていた。 優しくて、包む様に微笑むあの笑顔が。 そして春菜ちゃんの、あの、人を思いやる優しい心根に私、心がじんわりとして思ったの。 生きていてまだ、心が喜ぶんだって。」 「真季子だけでは無いのよ。 私だって、涼司さんが亡くなって生きる喜びを失ったわ。 あの方は…、唯一、私の本質を見てくれた。 私の姿でななく、心を」 「紀子…」 「お兄様もそうかもしれない。 誰もお兄様の本質を見て、惹かれ付き合っていた女性っていたのかしら? 女性を惹き付けるフェロモンに惑わされて、誰も本当のお兄様を見ようともしない。 そんな中、唯一、ナホちゃんだけは違っていた。 お兄様はそんなナホちゃんが本当に好きだった。 だから、侑一さんとナホちゃんの恋を応援したのよ。 ナホちゃんの寿命が短くなる事も知ってもなお、ナホちゃんの心を酌んだのよ。 ナホちゃんは…、誰よりも幸せだったのよ。」 「…そうね。 だけど、私はやはり、お兄様を許せない。 実の兄でも…!」 「真季子の気持ちも判るけど、ね…。 ねえ、真季子。 そろそろ、「六家の集い」でもしない? 朱美から、忍さんの事を聞きたいし、それに真季子からの忍さんの話も聞きたいし?」 とくすりと含む様に笑う紀子に、真季子は笑った。 「春菜ちゃんから忍さんの情報を沢山、集めたんでしょう?」 「もう、紀子ったら」 「でも、本当はそれだけではないんでしょう? 真季子。 本当は忍さんと春菜ちゃんが付き合う様にしたかったんでしょう」 「あら、バレていた?」 「当たり前でしょう? 何年、付き合っているのよ。」 「ふふふ♪」 「でも、こればかりは判らないわよね。 もし、2人が本当に付き合ったら…、志穂達の反応を考えると、ぞっとするね。」 「まあ、朱美は半狂乱するでしょうね。 でも、知った事ではないわよ。 ずっと忍さんを独り占めしているんだから。 事情が事情でも、でも許されるべき事では無いでしょう?」 「まあ、確かにそうかも知れないけど。」 「少しは私達の心の痛みを思い知ればいいのよ。 朱美がいくら忍さんの従兄弟であり、義理の姉で…、そして亡くなった忍さんのお母様にそっくりだからと言っても!」 「…」 「忍さんが目覚めた時、朱美の姿を見て泣いて縋って離れなかったと聞いた時、私は朱美の提案を飲み込んだわ。 朱美から提示された「六家の掟」を。」 「朱美も必死だったのよ。 忍さんの心が壊れて眠りについて、そしてやっと目覚めたその様を逐一、見守ってみていたんだから。」 「紀子」 「私達、「六家ガールズ」は涼司さんを巡るライバルだけど、それ以上に大切な幼なじみでしょう。 色々含む所はあるけど、でも、それだけでは私達の関係は成り立たない。 核は皆、一緒だから。 涼司さんを愛していて、そしてその遺児である忍さんが誰よりも大切だと言う「想い」が。」 「そうね」 「さて、帰って来た時の春菜ちゃんの話が楽しみだね。 春菜ちゃんの「六家ジュニア」達に対する感想も、ね。」 「ねえ、今から銀座にある「ホテルタカツキ」のラウンジで飲まない?」 晴れやかな表情で話す真季子に紀子が微笑む。 「そうね」 その後、2人はラウンジで心ゆく迄涼司の事を語り合った…。 |