Act.21 恋愛狂想曲 その7 「…ええ、解ったわ、お兄様。 春菜ちゃんを「一光」に連れて行くわ。」 侑一との会話を終えた真季子が紀子と春菜に満面の笑みを浮かべて、言葉をかけた。 「お兄様。 「仕事」で少し遅れるので、春菜ちゃんを「一光」に連れて行って欲しいって。 今から支度をして行きましょう♪ 紀子、春菜ちゃんを一光に連れて行った後、送るわね。」 「…一光?」 疑問符を紡ぐ春菜に紀子が微笑みながら答えた。 「ああ、春菜ちゃん。 もしかして「一光」は初めてかな?」 「…ええ」 「「一光」は輝さん。 ああ、高槻輝さんと言って、「六家ジュニア」の一人で高槻グループの後継者が経営している料亭なんだ。 但し、出資は「六家ジュニア」によるものだけど。」 「それ、どういう意味ですか?」 「まあ、一言で言うと彼らが「六家の集い」を行う為に場所が欲しいが為に作った料亭かな?」 「…え? そんな理由の為に?」 「私達、「六家ガールズ」も銀座にある「ホテルタカツキ」のスウィートを貸し切って「六家の集い」をするけどね。 ちなみに鎌倉にある「ホテルタカツキ」はお父様達が集いを行う為に作られたホテルだから。 お父様達は年に2回しか行わない。 涼司さんの誕生日と、命日だけはホテルの営業は休止して、貸し切りで行っている。」 「…そ、そうなんですか…」 (な、なんてスケールの大きい集いなの…。 スウィート貸し切りですか?料亭、作っちゃう訳??極めつけ、ホテルを建てるの??? 一般庶民には考えられない常識…。 まあ、全国に百貨店を持つ更科グループが、半端ではない程のお金持ちだというのを身を以て知ってますけど! 確かにパパと暮らす様になって、色々と、本当に色々と頂いてる…。 全てが超一流で、もう値段がいくら?って考えるのもバカな程、高価なモノを…) 過去のプレゼントの数々を思い出し深く溜息をつく春菜に、真季子は「一光」に到着した事を伝える。 「一光」についた途端、春菜が「一光」に対して思った事はただ一つ。 本当に金持ちの考える事は解らない…、のみだった。 (な、何、この日本庭園のお手本の様な景色は…。 え、奥にある別館がパパ達の集いの為のみに使われている建物ですか? し、信じられない…) 余りの贅沢さに頭を抱えながら、「鳳凰の間」に案内された春菜は、部屋の広さと設備にまたまた言葉を失った。 (な、何、この異常な広さは…。 え、グランドピアノ? バーに、ビリヤードよね、あれ。 それに左端っこにあるのは、パチンコ台よね? 6台あるのを見るとやっぱ、あれで競ってるのよね、きっと! ミラーボール付きのカラオケステージに、クレーンゲームに、今は過去の遺物となっているモグラ叩きゲーム(古!)、麻雀に競馬のゲームに! こ、こんな常識はずれな部屋。 やっぱりパパ達は変だわ! も、もういやあああああ!! こんな所にいたら増々、私の常識が…! もおおお、帰りたいけど、真季子さん、ちゃっかりいつの間にかいなくなっているし。 多分、克彦さんに会いたく無いんだな。 きっと、そうだ。 パパには悪いけど、こっそり帰ろうかな…) と思っていた春菜をじっと見つめる男性がいる事に気付き、春菜は慌てて姿勢を正した。 気まずい雰囲気が2人の間に漂う。 緊迫した空気の中、春菜は余りの緊張に目眩を起こしそうになる。 はああ、とげんなりする春菜に、視線の主が声をかけてきた。 「侑一の娘か?」 急に問われる言葉にこくりと頷く。 「そうか」 そう言葉を紡ぐと春菜から視線を外し、目を瞑りソファに深く座り込みながら部屋に流れる音楽に耳を傾き始めた。 流れている音楽に春菜は一瞬、顔を顰めた。 演歌だわ、これ…。 (だ、誰この人? パパの幼なじみと思うけど、今迄の人達と全然雰囲気が違う。 な、何、この鋭い空気を纏う人は! 流れている演歌を聴くと何時の時代の人よ、この人〜!!! やっぱりパパの幼なじみは変! サラサラヘアの真っ黒な髪に、一重の切れ長が魅力的なとってもハンサムな人なのに、勿体ない…! え、何? 急に身体に悪寒が。 い、いや、何、この背中に流れる冷や汗。 この部屋に流れる冷たい空気が体中に浸透して、さ、寒い!!!!) いやあああ、と心の中で叫んでいると急に扉が開かれた。 ま、また誰か来た、と心の中で呟いていると入って来た男性を見た視線の男性の空気が和らいだ。 (あ、急に体が温かくなった…。) ほうと、溜息をつく春菜の隣に背の高い、彫りの深い顔をした美形が入って来た。 (ま、また違う人が来た。 この人もパパの幼なじみだから、一癖も二癖もある変人に違いない…。 か、関わりたく無い!) ぶるぶる身体を震わせながら、隣の男性にちらりと視線を向ける。 「雅弘、もう来ていたのか。 相変わらず早いな。」 「ああ…」 雅弘の素っ気ない返事に苦笑を漏らしながら、春菜に視線を注ぐ。 「あ、君は侑一の娘さんだね?」 柔らかく微笑む男性の笑顔がとても優しい事に春菜はどきり、と胸が高まった。 一瞬、答えるタイミングを失いそうになった春菜に、またにこりと微笑む。 向けられる笑顔にぽおお、と頬を染めながら春菜は何とか返事をした。 「そ、そうですけど…。 貴方もパパの幼なじみの方ですよね?」 春菜の言葉に目を細め、言葉を返した。 「それと、忍の義兄と言えばいいのかな?」 「え?」 告げられる言葉に、春菜は言葉を詰まらす。 「初めまして。 私は忍の義兄で坂下豪といいます。 いつも忍が世話になっているね。 君に不躾な視線を送っていた男は本間雅弘と言う。」 「…」 「ふふふ、また黙りになる。」 豪の優しい雰囲気に春菜は思考が停止しそうになった。 辛うじて浮かんだ言葉が、パパにマトモな幼なじみがいる、と言う事だった。 (な、何、この人。 本当にパパの幼なじみよね? それに坂下君のお義兄さんって言うけど、全然雰囲気が違う! うわああ、なんて優しそうな人なの〜! は、初めてマトモな人と出会った… よ、良かった。 それに常識もあるし、とてもハンサムな男性…。) うっとりと豪の事を見つめてると、豪が目を細め苦笑を漏らす。 和やかな雰囲気の中、春菜の気持ちが緩んだ途端、急に割り込んで来た声に春菜はまた、体中に緊張が走った。 (こ、この声は。 華やかなフェロモンだだ漏れの、軽やかなこの声の主は…!) 「…豪。 俺の未来の妻を誘惑しないでくれないか?」 「孝治さん!」 ああ、波乱含みな展開…。 |