Act.20  恋愛狂想曲 その6


「何の様だ、侑一…!」

不機嫌な様を隠す事無く侑一に言葉を放つ輝に、軽く苦笑を漏らす。
淡く微笑みながら、あの独自の口調で輝に言葉をかける。

「大切な友が、長い商談を終えて帰国したのを迎えたかったんだ…」

そう伝える侑一の空気がもっと冷たくなる。
言葉通りとは思えない侑一の雰囲気に輝は更に不機嫌さを露にした。

「お前…、何を企んでいる。」

「僕が輝に何を含んでいるかと、言うんだね?」

「当たり前だろう!
お前が何かの目的が無い限り、俺には近づかないはずだ。
俺がお前の事を嫌っている事を知らないとは言わせない!」

「輝もいつまでも、子供の様な態度を示したら駄目だよ。」

「そうさせているのは、お前だ、侑一!」

普段の輝とは思えない程、息を弾ませながら侑一に突っかかる。

そんな輝に対して侑一は更に微笑みを深くする。

緊迫した2人の間に携帯音が鳴る。
侑一の携帯が鳴った事を知った輝は出る様に促す。
携帯を取ると相手は豪だった。

「おい、侑一。
頼むから、穏便に輝に接してくれ。」

「もう、僕に対して豪迄そういう事を言うんだ。
僕が何時、輝の神経を逆撫でする言葉を言った?」

侑一の豪の会話に輝が心の中で叫んだ。

(お前は何時もであろう!
何、白々しく豪に言う!)

侑一の言葉に豪は苦笑した。

「侑一がそうではなくても、輝はお前の言葉に敏感になっている。
今迄の経緯がそうだから、輝の態度に寛容になってくれないか?
頼む、侑一。」

「豪は人が良過ぎるよ。
ふふふ、全く、僕は豪と義理の兄弟になりたいのに、現実はそう成らざる得ないみたいだけど。」

「…?
どういう事だ、侑一?」

豪との会話で侑一が輝にとっての爆弾宣言を発しそうになっている事を感じた輝が、侑一の携帯を奪い、強引に会話を終わらせた。
輝の急な態度に苦笑する。
侑一の表情を見て、輝は確信した。

自分の朱美に対する、恋情が侑一にバレている事を…。

「…何時、知った。」

「何が?」

苛立がMAXになった輝の口調が険しくなる。

「俺の気持ちを…」

「ああ、朱美ちゃんに対して純愛を貫いている事?
勿論、初めからだけど。」

「…!」

「朱美ちゃんねえ…
確かに気は強いけど、美人で優しいし、曲がった事が大嫌いな性格は僕は好感が持てるよ。
父がね。
僕に結婚を勧めているんだ。
朱美ちゃんとのね。
僕だけではなく、他の「六家ジュニア」にも勧めていると思うけど、僕は何時もスルーしていた。
輝の恋情を知っているのに、それは道理に反していると思わない?
でもね。
春菜にも母親は必要かな?と最近、思い始めた。
朱美ちゃんなら春菜も気に入ると思うし、朱美ちゃんも実の娘の様に可愛がってくれるだろう。
彼女は人情家だもんね?
そういう所に惹かれたんだろう?輝」

くすくすと鈴を転がす様に話す侑一の胸ぐらを掴む。

「…朱美は渡さない!」

「うん、解っている。」

「…」

「ねえ、輝?

今、自分が行っている僕に対する態度、回りはどう取るか解らないとは言わせないよ?」

「お、お前!」

心の中で「しまった」と叫び、侑一の胸ぐらを掴んでいた手を放し、後ずさった。

普段の輝とは到底思えない程、動揺する様に侑一は微笑む。

「今の行為。
空港に居る人々はしっかり見ている。
ここで僕が輝の行為に一言発したら、どう取られるだろう?」

「お前、俺を挑発してわざとさせたな!」

「どうして僕が?」

侑一の言葉に輝が一間を置いて言葉を続けた。

「お前に俺が不快な言葉を告げたんだろう…」

「ああ、そうだね。
春菜の事を、若気の至りの結晶と言う言葉?」

「…済まなかった。」

しぶしぶ頭を下げ、謝罪する輝に侑一がゆったりと微笑んだ。

「まあ事実だけど、ひとつだけ違う。
春菜は過ちで生まれた子供では無い。
僕たちの愛の結晶だよ。」

さらりと恥ずかしげもなく言葉を話す侑一に輝は壮大に顔を顰めた。

「僕はね。
春菜の存在に今迄の人生が無駄でなかった事を諭されたんだ…。
僕にとって、春菜は全てなんだ。」

「…」

「だから今後、春菜の事で何か発したら、僕は大切な友であっても容赦はしない。」

「侑一…」

「まあ、滅多にない、輝が狼狽える姿も見れたし、謝罪の言葉を聞けたから僕の気持ちは一旦は収まったよ。」

侑一の言葉に輝の柳眉が軽く上がった。

「一旦…?」

「ふふふ」

「今日の集い、不参加で構わないだろうか?」

「却下」

「侑一!」

「駄目だよ、輝。
お前にも絶対に今日の集いは参加して欲しい。
今後の春菜の為に。」

侑一のがらりと変わった口調に輝は軽く肩をすくめる。

「ああ、そういう事か…」

「察してくれて有り難う、輝。」

侑一の今回の「六家の集い」の意図を知った輝が苦笑を漏らす。

あの緊迫した空気はいつの間にか消え去っていた。

「お前、本当に娘が大事なんだな…」

呆れながら言う輝に、独自のゆったりとした口調でこう言った。

「悪いけど、輝には絶対に嫁がせないから。」

「誰が!」

「朱美ちゃんとの恋に破れても、春菜には手を出さないでね。」

「侑一!」

「ふふふ」

全く…、とぽそりと言葉を放つ輝が脱力している事を見つめながら、侑一はその場を去った。
侑一が去った後、直ぐさま豪に電話をする。
輝の連絡に安堵を零す豪に輝が微笑む。

「これに懲りて少しは侑一に対しての態度を改めろ、輝。」

豪の穏やかに諭す言葉に、先程の侑一の言葉が蘇り、輝は血管を浮かばせながら豪にこういった。

「俺には一生無理だ…」

今の言葉で、輝の多難は今後も続くのは言う迄も無い事であった…。





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