Act.19  恋愛狂想曲 その5


(ああ、まだ体がきしきしする…。
もう、相楽さんたら、力一杯揉むほぐすんだから!
痛いのなんのって!
でも、お陰で見違える程綺麗になった…、と思う。
メイクをされて真季子さんが用意してくれたドレスとアクセサリーを身につけたら…。

パパ…。

私を見てどう思うのかしら?)

エステから帰った私はパパが帰宅する迄、真季子さんと紀子さんと一緒にお茶の一時を過ごしていた。

先程からの2人の視線が痛い…。

まあ、気持ちはよく解ります。

はい、出来上がった自分を鏡で見て呆然とした…。

真季子さんは驚愕から涙へ、そして紀子さんが懐かしむ様な目で私を見つめた。

そう、私は瓜二つなのである。

写真で見た18歳のママに…。

神妙な空気が漂う中、言葉を発したのは紀子さんだった。

「まあ、春菜ちゃんがナホちゃんに似ているとは思ったけど、まさかここ迄とは思わなかった。
流石、相楽智子。
天晴としか言い様がない…。
真面目に専属としてスカウトするか…。
でもそうなると仕事云々よりも、私の貞操の危機が。」

紀子さんの話を真面目に聞いていたが、最後の言葉に私は少し顔を顰めた。

(それは貞操の危機と言うんだろうか?
逆に相楽さんの人格の危機と突っ込みたいんだけど。
紀子さんを毎日見つめていたらフェロモンパワーに侵されて、社会復帰が出来ない程、そっちの道に突っ走る様な…。
いや、それは考え過ぎかな?
でも、絶対にそうなりそう。
ああ、どうして私の回りはこうも変人が…)
と思考を巡らしていると、いきなり真季子さんから抱きつかれた。

余りも唐突な出来事に私は一気に思考が真っ白になった。

辛うじて呟く言葉が奇声だけだ。

「は、ま、真季子さん???」

密着する真季子さんの胸の柔らかい感触に私は顔を真っ赤に染めて抵抗をするが、逆にもっと強く抱きしめられ
息が詰まりそうになる。
咳き込む私の顔を覗き込む真季さんの目には、涙が止めど無く溢れていた…。

「なっちゃん。
もう、なっちゃん、どうして私達を置いて死んだのよ!
真季子はなっちゃんがいなくなってどれだけ寂しかったか。
私にとって涼司さんとなっちゃんだけだったのに…。
どうして…!」

「真季子さん…」

ああ、真季子さんはママがとても好きだったんだ…。

この様子ではママは真季子さんを自分の本当の妹の様に可愛がっていたんだね。

だから真季子さんは私を実の姪として可愛がってくれるんだ。

ママ…。

私、ママと話がしてみたかった。

パパの事をどんな風に愛していたのか。

真季子さんや、紀子さん、孝治さんや、そして宮野家の家族の事。

私の事をどう思い、この世に誕生させたのか、ママの口から聞きたかった。

じんわりと涙が出る私を更に強く抱きしめる。

ぽそり、紡ぐ真季子さんの言葉に私はまた涙した。

「有り難う、なっちゃん。
春菜ちゃんをこの世に誕生させてくれて…」

私達は一通り涙を流しなら抱きしめ合っていた…。



「今日の集い、主催は侑一か…。
お前、侑一に変な事を言って無いだろうな?」

「お前、ソウルから帰国した俺に言う言葉がそれか、豪…!」

「では、無事商談を終えてお疲れさまと労って欲しかったか、輝」

携帯越しに苦笑する豪に、輝が顔を顰める。

深いため息を零す輝に、また豪が苦笑を漏らした。

「侑一を何故、あんなに苦手とする?」

「…お前、知っていて俺に問うのか、それを?
性格が悪いぞ、豪。」

「お前には言われたくないな、輝。
毒舌が過ぎるから侑一がお前に絡むんだよ。
お前…。
本当に今回、何も言ってないんだろうな…?」

「…多分。」

輝の曖昧な言葉に豪の柳眉が微かに上がる。
少し考え込み、言葉を紡いだ。

「…侑一の娘を今回の集いに連れて来るらしい。
今朝、侑一からそう連絡があった。」

「…へええ」

「侑一に娘か…。
俺は最初、新たなジョークかと思ったが、まあ、侑一の事だからな。
しかし14歳で父親か…。
はははは、侑一らしいな。」

曇り無い豪の言葉に、輝は携帯越しで不機嫌な様を露にした。

言葉の端々に皮肉が込められている事に、豪は笑い出した。

「あいつは何を考えているかさっぱり解らない…。
あの笑顔の裏に何を貼付けているかと思うと、背筋が寒くなる…。
どうして俺があいつの幼なじみなのか、天を呪いたくなる。」

「…侑一に暴かれたく無い隠す事をお前が持っているから悪いんだ。」

「どうして侑一の弁護に走る、豪!」

「ふふふ、そう不機嫌になるな、輝。
…。
今日の集いを純粋に楽しもう。
俺たちは、友であり、仲間だろう?」

「…」

「俺はお前や、侑一、孝治、克彦、雅弘の存在に救われている。
お前達が俺の存在を認めてくれるから…。」

「豪…」

「ああ、今日の集いがとても楽しみだよ。
改めて、輝。
ソウルでの、商談お疲れさまでした。」

「ふん」

携帯越しにくすくす笑う豪に、輝がもっと顔を顰めた。

心の中で、本当にこいつには敵わない、と思いながら…。

(しかし、久々に六家の集いか…。
豪のやつ、穏やかに笑っているが、何時も酒の肴にされているのを忘れているんだろうか?
しかし、娘を連れて来るのか…。
侑一の娘がどんな性格なのか、興味が無いと言えば嘘になるが。
ただ、あの侑一の性格を受け継いでいたら…。
やめよう。
精神衛生上、心臓に悪い…。
ああ、関わりたく無い…。
一生涯、あいつには…!)

過去の出来事を一瞬、思い出した輝が身体を震えさせた。

悪寒が走る…、と一瞬、自分の背中に漂う空気に身体を強張らせた。

何事かと思い後ろを振り返ると、そこには侑一が立っていた。

どうしてこいつが空港に…!、と叫びそうになる言葉を飲み込みながら、鋭い視線を投げ掛ける。

会話が途切れた輝に、豪が痺れを切らし話しかける。

輝の言葉に携帯越しの豪が顔を引き攣らせた。

「侑一が側にいる…」

「…え?」

「空港にいる…」

そう良い終えた輝が携帯を切る。

通話が不自然にキレた事に豪が心配して携帯をかけるが、その事を知っても出る事が出来ない。

何時もより更に深い笑みを浮かべた侑一が、言葉をかける。

「お帰り、輝」

黒い空気が全身に漂う侑一に、輝は言葉を無くし、その場に佇んでいた…。



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