Act.18  恋愛狂想曲 その4


「お待たせ、紀子♪」

真季子さんに伴ってベンツに乗り込んだ私が連れられた先は、宮野財閥が経営の一端として運営してる
会員制のエステであった。
一部の上流階級の方々のみの利用という事もあって、設備も豪華さが半端ではない。

呆然としている私が真季子さんに連れられた部屋で待ち受けていたのは、涼司さんの巨大なパネル写真であった。

「こ、ここにも、涼司さん…」

呆気に取られている私の目の前に長身の紀子さんが進んで来た。

「素敵でしょう?この写真の涼司さん。
私達と同じ年の29歳の時の彼よ。
もう本当に、この世の人では無い位素晴らしい方よ、涼司さんは…!」

ああ、ここにも少女漫画の如く、キラキラモードに入った美女が存在する。

彼女の名前は宮野紀子さん。

私の義理の叔母になる方である。





そう、孝治さんの妹である彼女は身長172センチの、まるで宝塚の男優の様に凛々しい美人さんだ。

幼小中高大と一貫して女子校であった紀子さんは、学園で伝説を作った程人気があったと言う…。

真季子さんも同じ幼稚舎からずっと同じく学んでいたので、紀子さんの人気がどれだけ凄まじかったのか
私に語ってくれたのだが、その後、紀子さんからもこれまた真季子さんがどれだけ学園内で人気があったのか、
延々と語ってくれた。

要するにこのお二方は、百合族に異様にモテたという事だ。

今も紀子さんには熱烈なファンがいて、この会員制の超高級エステの殆どの利用者がファンの方々と言う…。

(でも、解る様な気がするな…。
紀子さん。
変な男よりも凛々しくてカッコいいんだもの。
こう、動作も凛々しくて少しハスキーな声もこう、なんて言うかそそられると言うか。
見つめられると、ぽう、と頬が赤くなるんだもの。
や、ヤバい。
私も実はそのけがあったなんて…。
いや、あり得ない。
坂下君に恋心を持つ私がそんな…。
でも、素敵だな…、紀子さん。)

うっとりと見つめていると紀子さんが苦笑を漏らした。

慌てて視線を外す私に、優しく微笑む。

その微笑みにまた、ぽおお、と赤くなる。

「もう、紀子ったら、私の姪に変な視線を寄越さないで!
病気になったら責任取れるの?」

散々な言い方である。

「何、バカな事を言うの、真季子は!
私が義理の姪に変な視線を寄せると思うの?」

「紀子ならあり得るでしょう?
だって、その視線で何人、誑かしたのよ、女性達を。」

「…ここ最近は、2、30人くらいだよ。」

けろりと言う言葉に、私は既に言葉すら出ない。

(す、凄過ぎる、紀子さん…。
な、なに、この歩くフェロモン女性。
それも異性ではなく、同性に効果があるなんて。
あ、あり得ない…!
確かに孝治さんだって、エネルギッシュで異様に色気がある人だとは思ったけど…。
桁が違う。」

心の中で紀子さんの異様なモテっぷりを賞賛していると、つと、真季子さんに手を取られた。

「もう、いいから、早急に春菜ちゃんを素敵なレディに仕上げて。
ゴッドハンドを持つ、彼女も捕まえているんでしょうね?」

真季子の言葉に紀子が軽く頷く。

「ここ3年は予約がある彼女を落とすのに苦労したんだから。」

紀子さんの言葉に真季子さんが顔を歪ませ微笑む。

「嘘おっしゃい。
彼女が紀子の熱烈な信某者な位、知ってるわよ!
だって彼女、私達の女子校時代の後輩だったじゃないの。
その時、どれだけ紀子のおっかけしていたか、私、知っているんだから。」

妖艶に微笑む真季子さんに私は一瞬、心臓を鷲掴みされた。

(き、綺麗過ぎる真季子さん…!
ああ、真季子さんて、こういう表情の時の方が生き生きして、なんて綺麗なんだろう!
もしかして、克彦さんはこういう真季子さんの表情が好きなのかもしれない…)

また、私は克彦さんの恋心を勝手に妄想していた。

「とにかく、あのぼんくら達に一泡吹かせたいのだから、頑張って頂戴!
特にあのバカ男には。」

「…ああ、輝さんか。」

くすり、と紀子さんが微苦笑を漏らす。

「そうよ!
あのバカ男、この間、我が社に来た時、重役室にある涼司さんの写真を見て、小馬鹿にしたのよ。
ふふんと、蔑んだ目で涼司さんを見つめて…!
それに、春菜ちゃんの事も、「侑一の若気の至りの結晶か」と言い放って!
もう、絶対に許さないんだから!
涼司さんだけではなく、私の可愛い姪迄バカにして!」

はあはあ、と息を荒げる真季子さんの形相を見つめながら、「ああ、なんて低次元…」と心の中でぼやいた事は死んでも言えない。
だけど、私の事を大事に思ってくれる気持ちにはかなり、きた。

思わず、じんわりと涙が出そうになった。

「真季子さん…」

「ま、とにかく、あのバカどもは一度、色々な意味で痛い目に遭わないと解らないって。
だけど、真季子。
輝さんが言った言葉、侑一さんは知っているのかな?
知っていたら…、どれだけの事で報復されるか、輝さん、知っているよね?」

神妙に言う紀子さんの言葉に、一瞬、背筋が寒くなって来た。

その言葉に、真季子さんがふふふ、と微笑む。

「当たり前でしょう?
今日、集いがある前に教えようと思って、先程、お兄様に伝えたわよ。
お兄様、聞いた途端、こめかみに青筋を沢山作って、顔を引き攣りながら微笑んでいたわ。
素晴らしく、冷たい空気を纏いながら。
お兄様の事だから、絶対に抜かりはないと思うけど。

ほーほほほっほ、今日の集いがとても楽しみだわ。
どれだけの犠牲者が出るかしら。

お兄様、いつもぽやぽやしているけど、こういう時には絶大な力を発揮するもの。

私、お兄様の妹であった事で良かったと思う事がこれ以外、思い浮かばないけどね。

ああ、楽しみ。

うふふふふふ。」

侑一に対して、散々な言い方である。

(パ、パパがキレてるなんて…。
いや、そんな集いに参加したら、絶対に穏便には済まされない。
増々、行きたく無い…。
ああ、真季子さん、何故、パパを煽る言葉を言うのよ。
今日の克彦さんを見て、かなり機嫌が悪いのに、それ以上の事を言って不機嫌にさせて。

いや、絶対に行きたく無い〜!!!)

心の中で、絶叫している私の両腕を掴み、真季子さんと紀子さんは、私をゴッドハンドを持つ女性の元に連れて行ったのであった…。




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